森蘭丸異聞
- RANMARU MORI -

第二十九章   


天高く舞う花に添えて





五月中旬、諸大名はさまざまに派手な衣装を身に纏い信長の誕生祝いを引っさげて
安土へと姿を現した。
その中にはおなじみの顔である羽柴秀吉や徳川家康、明智光秀に柴田勝家などが並び、
さらにはキリシタン大名の高山右近や宣教師であるルイス・フロイスなども見られた。
広い日本庭園に赤い桟敷を作り、そこに座椅子を作って信長を座らせる。
左右に小姓頭と蘭丸、そして脇に小姓軍が控えていて、信長の後方の桟敷には
濃姫たちが座していた。
その前に一人一人挨拶をしながら跪くと、祝いの言葉を述べて蘭丸に贈り物の品を
確認してもらい、それから小姓たちに贈り物を手渡してゆく。
一人に最低一刻の時間を有するため、実際に信長に目通りかなうのは力を持った
各国大名のみであった。
それでも夕刻まではこの儀礼を行わなければならないのだから、たまったものではない。
飽きの早い信長に至っては昼前からすでに退屈の虫をかみ殺している状態で、
かける言葉も「大事ない」「大儀であった」とお決まりのものになってしまっている。
蘭丸はそんな信長を見て笑いを漏らした。
飽きるのが早すぎるのではないかと呆れつつも、信長らしくてとてもほほえましく
なってしまったのだ。
「・・・・これ、お蘭。何が愉しゅうのじゃ?」
人の切れ間に信長が蘭丸にこっそりと声をかけてきた。
「上様・・・・このような席で無作法でございまするぞ」
笑ってしまった自分を棚に上げて、蘭丸は声をかけてきた信長を嗜めるように囁き返す。
すると信長はくっくと肩を揺らして笑い、扇子をぱちんと閉めて目配せした。
「わしは天下の無作法者よ。昔からそう言われ慣れておるわい」
この物言いに蘭丸は二の句も告げられずに瞬きをする。
信長にとっては無作法者とは褒め言葉にも取れるのだ。
元来、作法などを気にせず我にそってやってきた信長だ。
自分こそが作法、と言っても誰も反論すらしないだろう。
「上様・・・・わかりました、少々休憩することにいたしましょう」
蘭丸は諦め顔で一息つくと、そのことを伝えに小姓頭のほうへ立ち上がった。
するとその間にいた信長も席を立って蘭丸の前を塞ぐ。
「わしはもう飽きた、サル!わしの代わりをやっておけい!」
信長はそう告げると蘭丸の手を取って自室のほうへ足早に去っていってしまった。
あっけに取られた一同を前に信長の代わりを命ぜられた秀吉は弱り顔で隣の滝川に声をかる。
「・・・・上様の代わりとは、男前でなければ勤まりませぬの・・・」
「故に羽柴殿は男前、と言いたいのであろう?」
こっそりと、けれど皆に聞こえるように応答した秀吉と滝川の機転で、凍りついた
その場は笑いで暖まった。
信長が自分勝手に振舞えるのも、彼ら重臣たちのおかげともいえる。
蘭丸はその場にいた大名たちに後を託して信長の気まぐれに付き合う覚悟を決めた。



「して、上様。座を外されてどうなさるおつもりで?」
蘭丸は信長の自室につくと正座をし、窓を見下ろす主君の背に声をかけた。
信長は自分がいなくなった後を滞りなくやっているかどうか、眼下に
見下ろしながら確認している。
「そうだな・・・まずはゆるりと一献やるか?祝いの席だ、お蘭も飲め」
「はっ・・・!では上様、しばしお待ちくだされませ」
蘭丸は一礼するとすぐさまに膝を上げて酒を取りに走った。
ついであらばと一度自室に戻り、自分が渡そうとしていた信長への祝いの品を用意する。
朱色の椀を手に信長の部屋へ戻ると、信長はごろりと横になって蘭丸を待っていた。
「待ちかねたぞ」
「申し訳ござりませぬ。過日、松井殿から献上された丹後の濃酒をご用意いたしました」
そう言って蘭丸が椀に透明な酒を注ぎこむと、信長は横になっていた体をすばやく
起こしぐいといっきに飲み干した。
喉を焼けつくすほどに辛口の酒だ。
松井は信長の踊り仲間でもあり、信長の好みを熟知していた。
「上様、こちらは私からのお祝いの品でございまする」
酒を煽る信長の前へと、蘭丸がひとつつみの巾着袋を差し出す。
予想外だったのか信長はことのほか上機嫌な表情でそれを受け取り、開いた。
「・・・・・・お蘭、これは?」
しかし中を開いた信長の顔は訝しげな表情で歪む。
「干し柿にございまする」
床に置かれた椀に酒を注ぎながら蘭丸は平然と答えた。
「むう・・・他の者は皆、家宝を持ち寄りわしの機嫌を取ろうとしておるぞ?
しかしお蘭はそうせなんだ。干し柿とはなんとも祝いにそぐわぬ風情よ。なぜ故じゃ?」
信長は蘭丸の表情を見つめながら不思議そうに首をかしげた。
どの家臣も皆、天下人への献上品として恥じることのないように相応な品を用意している。
蘭丸も毎年をそれを見てきているし、今回だとて間近でそんな品々を確認してきたのだ。
見劣りするようなものをわざわざ用意する意図など信長にはわからなかった。
「以前、上様が丹波の栗か柿を食したいと申されておられました。されど季節は
もう春。栗は無理でも柿ならば、と丹後に参られた松井殿に頼んで取り寄せて
もらいました干し柿にございまする。昨年のものはそれで最後になりまする。
また秋まで待たねば手に入りませぬ故・・・」
蘭丸は微笑をたたえながらそう告げて、それから少し照れたような顔つきで囁いた。
「常から上様はこの蘭丸をわしの宝じゃ、と申されておられまする故、ならばその宝を
献上しようではないかと思いついてございまする。上様はしびれをお切らしに
なられましたが、本日のお勤めが終わりますればその代わりに明日よりはご公務は
お休みにしておりまする。ゆるりと蘭丸とともに干し柿をお召しになれるかと」
蘭丸の心根に信長は感嘆を漏らした。
しばらく忙しかった信長のことを思い、ゆっくりとくつろげる場を与えてくれるというのだ。
富も財も信長には手に余り、またそのような者は誰でも献上することができる。
けれどこの心配りだけは蘭丸にしか献上することのできないものだった。
「ほう・・・・、ではせっかくの馳走じゃ。さっそく頂くことにしよう」
信長はそう告げると差し出された巾着の上を通り過ぎて蘭丸の腕を掴んだ。
「・・・!上様?」
力強い信長の掌に蘭丸が目を丸くして彼の顔を見上げる。
すると信長は口の端をにぃ、と上げて蘭丸の身体を抱き寄せた。
「わしの宝を献上するのであろう?」
促すように信長の指先が蘭丸の襟元を擽り、袂を開くように中へと入っていく。
「そっ・・・・そういう意味ではござりませぬ・・・っ!」
慌てた蘭丸を腕の中に収めながら、信長は我関せずといった風貌で蘭丸の背を自分の
胸に当てて寄りかからせると、両手でいっきに整えられた襟を左右へ開いた。
蘭丸の白く艶かしい胸元が露になる。
「そういう意味とは?どのような意味だ?」
くっくと、信長の意地悪そうな笑い声が首筋に落ちて、蘭丸はくすぐったさに身じろいだ。
「その・・・・っ、同衾、する・・・という意味では・・・」
蘭丸の首筋がほんのりと桜色に色づいた。
それを見逃さず、信長はその首筋に唇を寄せかぷり、と食みつく。
「あっ・・・!」
蘭丸は思わず漏れてしまった声を抑えるために口元を手で覆った。
その手を軽く握って離させながら信長の唇は肌蹴させた背裏を通り肩甲骨の
くぼみへ舌を這わせる。
再びぞくりとした感覚が肌を痺れさせ、蘭丸は目を細めて睫を震わせた。
「ぁァ・・・んっ」
足袋に次いで外された帯が床につく頃には、蘭丸の身体は下帯一枚にさせられてしまう。
あまりの手際の良さに蘭丸は舌を巻いて背にいる信長を見た。
「お蘭よ、共に世界を見よう。誰も知らぬ海の果てを開拓するのだ」
「上様・・・・・」
ふいに真剣な顔でそう告げられて、蘭丸は眉尻を下げながら瞬きを繰り返す。
信長は時折、こうやって真面目な顔で夢を語る。
そこには負の感情などいっさいなく、輝かしい未来だけが約束されているようにも思えた。
「・・・・はい、上様。共に参りまする!お蘭を、連れていってくだされませ・・・!」
信長は煌く瞳でそう告げる蘭丸の唇に、そっと己の唇を寄せた。
愛しく、大切で何者にも代えることのできない相手への思い。
緩く触れられていた唇からそれが伝わってくる。
長い接吻の後、信長は自分の唇を開いて蘭丸の唇もともに隙間を開けさせた。
そしてそこから舌を侵入させ、愛するためではなく欲情させるための口付けを行う。
「っ・・・・ん、ふっ・・・」
淫猥な舌の動きに添おうと蘭丸の口内がそれに応える。
甘い嬌声は鼻先を抜けて空気に溶け、二人だけの空間に拍車をかけた。
「あぅ・・・・アッ、ん・・・ぅ」
何度も何度も舌先を交じわせながら信長は右手で蘭丸の股間を下帯の上からなぞった。
すると中に納まる男根がぴくりと奮えてその存在を誇示してくる。
連動するように蘭丸の頬が朱色に染まり感じ入った様子で目を閉じた。
「愛いぞ、お蘭よ・・・・かように愛しいと思う気持ちを持ったのは、そなたが初めてじゃ」
耳朶に囁いて甘噛みすると蘭丸の分身はさらに堅さを増してゆく。
「上様・・・・・私も、上様のことだけをお慕いしておりまする・・・ぅん、っく!」
ふいに下帯一枚を隔てて信長が蘭丸の性器をぎゅうう、と握り締めた。
その刺激は緩やかだった今までのものよりも数段激しく、蘭丸は身を縮こませて快感に耐えた。
「・・・祝いの席じゃ、もっと乱れるがよい」
「う、上様っ・・・・下帯が、汚れまする・・・・」
さらに刺激を送ろうと蠢く信長の手に、蘭丸が悲鳴のような声を上げる。
体中に欲が渦巻いて抗えぬまま、先端から糸が引き始めたら白い下帯に染みが出来てしまう。
そんな恥ずかしい状況になるわけにもいかず、蘭丸は下帯を脱ぐことを信長に懇願した。
しかし信長は蘭丸の言葉に耳を貸すこともなく皇かな肌を愉しんでいる。
どうやら蘭丸とは反対に、蘭丸の下帯を精液で汚すことが目的のようだ。
「あぁあっ・・・んっ!!」
胸の突起を爪でつままれて、蘭丸の肢体が仰け反った。
柔らかな弧を描くようにしなり、その若い肉体を悦楽に溺れさせる。
過敏になりはじめた性感帯を信長は容赦なく攻め立てていった。
「うえ・・・さま・・・ぁ、あっあっ・・・」
完全に勃ちあがってしまった蘭丸の屹立が信長の掌で摩擦され潤う
泉のごとく先走りを滴らせる。
それは下帯にじわりと円を描き蘭丸の羞恥を誘い煽り立てた。
布を一枚隔てているというのに、信長の愛撫は巧みで焦らされる。
「上様・・・も、う・・・もっ・・・・ぁあっぁあああっ」
身体の芯に燈った熱はどんどんと体中を巡り、紅蓮の炎となって蘭丸を攻め立てた。
そして男根のふちに沿って移動していた信長の親指がぐりりっと先端を愛撫した途端、
蘭丸は我を忘れて種液を下帯の中で放出してしまう。
蘭丸の性器は精にまみれ、下帯はじんわりと染みを作った。


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