森蘭丸異聞
- RANMARU MORI -

第十五章   


天高く舞う花に添えて





蘭丸はどうしようもない体の火照りを感じて目を覚ました。
直江兼続に助けられてからそれほど時間はたってないように思える。
しかし緊張につぐ緊張のためか蘭丸は一時ほど気を失っていた。
ぼんやりとした視界をゆるり見回すように左右へふると、そこへまだ若い男の
顔が浮かび上がった。
蘭丸がびくりと震えると、その男は小さく微笑んで首を左右に振ってみせる。
「大事無い。ここにいる限りは何もせぬ故、そのように怯えなくともよい」
その言葉が真実かどうかわからなかった蘭丸はまだ警戒を解こうとはせずずり、と
ふとんから這い出て男と対峙した。
「話は聞いておる。・・・・そのきのこは性質の悪いものだぞ、放っておけば気さえ狂わす」
この言葉にも蘭丸は首を左右へ振ってみせた。
どんなことになろうとも、蘭丸は信長を裏切ることなどできない。
はぁ、と熱い吐息を吐き出しながら蘭丸は潤んだ瞳で男を睨み上げた。
「どうか、捨て置いてくだされまし・・・・」
桜色の唇はきのこの効能のせいか、ふるふると薄く奮えてしまう。
両手で自分を抱きしめるようにすると、蘭丸は服の先をぎゅっと握り締めた。
快感に支配されてはならない。
何が起ころうとも、自分の気が狂おうとも、その忠なる精神は捨ててはならない。
「・・・・・しかし、そのままでは・・・目を瞑っていれば誰を相手にしているかも
わからぬだろう、許せ」
男はそう言い切ると、蘭丸の力の入らない足首を捕らえ己のほうへ引きずり寄せた。
「ああっ!・・・ッ!!」
背中を畳が擦り上げる感触がたまらず、蘭丸は思い切り艶のある声を放ってしまった。
それだけでも十二分に自己嫌悪の対象になるというのに、蘭丸の悦楽は止まらない。
男は肌蹴た長衣の裾をめくりあげ蘭丸の素足を行灯の元へ晒した。
白い足は闇夜によく浮かび上がり、艶のある肌の先の茂みへつい手を
伸ばさせてしまうほど色めいている。
男の指先がつい、と太股を抜けて帯のほうまで裾を手繰り上げた。
「・・・このように猛って・・・出さねば辛いだろう」
けして色に溺れているわけではない声が蘭丸の耳に届いた。
それでも信長のものとは違うその声に蘭丸は嫌悪感を感じられずにはいられない。
しかし身体ばかりは心を裏切って竿高く反らせ、先端から甘い蜜を滴らせてしまっていた。
男はそんな蘭丸のむき出しにさせたまま膝裏に両手を添えて自分の膝の
元まで引きずった。
「ああっ・・・ぁあ・・・・」
ぞくぞくっと背筋に抗えぬ快感が迸っていく。
蘭丸はまとめてあった髪がほつれ、乱れ落ちるのも気にせずにがむしゃらに
首を左右へ振った。

体勢を立て直した男の身体が蘭丸の両足を割って入ってくる。
「や・・・やめっ、・・・ぅ・・・あぁ・・・」
男の肩を押し返そうとした手が振るえ、力を込めてもただ服を握るだけしか出来ない。
弛緩しきった身体は抵抗する術すら奪ってしまっていた。
このままこの男に辱められてしまうのだろうか。
蘭丸の心に暗い闇が広がっていく。
誰にも抱かれぬと信長に誓ったというのに、それすらも守れず惨めに
泣くことしかできないのか。
透明な涙がつう、と頬を伝った蘭丸の両足を大きく掲げると、男は
蘭丸の股間へ顔を落とした。
途端、痛いほどの快感が全身を狂わせてゆく。
「ああああっ!・・・ああっ、・・・・んああっ」
びくん、びくんっと爪先が何度か痙攣を起こす。
蘭丸は自分の性器が男の口に含まれた途端、達してしまったのだ。
しかしそれでは収まらずなおも摩羅は激しく脈打っている。
蘭丸は舌を噛み切ろうとかち、かちっと歯の根を合わせた。
しかし手足同様に力の入らない顎ではとうてい噛み切ることなどできなかった。
「・・・・何をしている?」
そんな蘭丸の様子を気遣うように男が下股から顔を上げた。
行灯の光が差込み、視界が明るくなって見えた己の足先に蘭丸は羞恥で
気が狂いそうになる。
足を高く抱え上げられ帯まで捲り上げられた着物は下半身をいっさい隠すことなく、
零れる月光と行灯の光のせいでだらしなく雫を垂らす摩羅もひくつく菊門も
すべてが男の目に晒されていた。
「・・・っ!」
耐え切れず蘭丸は男から視線を逸らし、横へと顔を背けた。
男は小さく息を吐くと、蘭丸の出した精液で指を濡らし尻肉の間につぷっと押し当ててくる。
蘭丸は全身から血の気が引く思いだった。
実際にはこの上なく興奮していてすべての肌を朱色に染めているというのに。
再び蘭丸の唇が震える。
「・・・しばしの辛抱だ」
言って男の指が少しづつ蘭丸の秘部に食い込んできた。
「・・・やぁ・・・・」
蘭丸の脳裏にはただ一人の人物の顔しか浮かんでこない。
生きて戻ると誓った信長の顔だ。
「・・・・っ・・・く・・・」
涙が止まらない瞳で、蘭丸はふとあるものに気がついた。
二人がまぐわうふとんの横に信長からもらった脇差が置いてあるのだ。
とっさに蘭丸は腕を伸ばしてそれを取った。
「・・・うえ、さまっ・・・」
そして鞘を振り捨てると切っ先を己の喉下へと突き立てる。
蘭丸の目は真剣だった。
信長以外の誰かにこの身体を明け渡すくらいならば、森家断絶といえど死を選ぶ。
蘭丸が出した答えはそれだった。
皮膚に冷たい感触が触れた瞬間、蘭丸の手は男の手によってはたかれた。
「っ・・・!」
ぱしーんっと大きな音が響くと、飛んだ脇差の切っ先が畳を貫く。
「・・・なんと言うことを・・・!」
男は明らかに動揺した様子でごくりと生唾を飲み込んだ。
そして肩を落としながら深く息をつくと蘭丸に小さく苦笑を見せる。
「悪かった。もう何もしない。・・・・・つらいと思うが耐え抜くか、自分で処理をするがよい」
男は両手を上げて蘭丸から離れると、畳に突き刺さった脇差を拾って鞘へと収めた。
そのまま震える体を両手で抱きしめる蘭丸の横へこつん、と脇差が置かれた。
「・・・・・森殿、命を粗末にしてはならない。私たちはそなたに危害を加えようとは
思っていない故・・・。いや、すべては明日話すことにしよう。ゆっくり休んでくれ・・・
そなたを待つ人のためにも、な」
そう告げると男は障子を開けて隣の部屋へ出ていく。
蘭丸はようやく安堵したように肩の力を抜いた。
そして思い出したように頬を赤らめてはだけられた布を中心へかき集める。
それから指先が喉に触れてみると、切っ先は掠っただけで皮の一枚しか切っていない。
「・・・上様・・・」
蘭丸は横へと置いていってくれた脇差へ手を伸ばした。
今は会えない信長のかわりに、その両腕で力いっぱい脇差を抱きしめる。
脇差は温もりを返してくれることはなかったが、そのかわりに勇気をくれた。
”ゆっくり休んでくれ・・・そなたを待つ人のためにも、な”
蘭丸は男の言葉をゆっくり反復した。
そう、自分には信長が待っている。
蘭丸は乱れる呼吸に肩を揺らした。
「・・・・・ッ・・・・、ん」
もじ、と閉じられた足が擦られる。
安心した途端、蘭丸の心と身体を快楽が支配し始めたのだ。
蘭丸は必死に己を抑えようとしたが、はむかうことの出来ぬもどかしい感覚に
ついと指先が伸ばされる。
おずおずと開かれた膝の間から未だ醒めることを知らぬ高ぶりが顔を出した。
少し冷たい夜の空気が火照った肌に心地よい。
「・・・上様・・・上様、っ・・・ぁんっ」
言葉を口にすると、まるでそれが呪文かのように蘭丸は乱れた。
性急に己の性器を握り締めると痺れたように震える手で何度も何度も擦り上げる。
力は相変わらず入らなかったが、それでも掌の摩擦が蘭丸を攻め立ててゆく。
「んあっ・・ぁ、いいっ・・・あああっ・・・」
声を殺すことも忘れて、蘭丸はただ解放されるためだけに指先を動かした。
くびれに添わせた手の輪がぐりぐりと左右に回転する。
そのたびにぞくぞくっと背筋が戦慄いて蘭丸は呼吸浅く喘ぎ続ける。
「あっ、ぁ・・・っ・・・上様ぁ・・・ああっん!」
親指の腹できゅっと亀頭を擦ると、あっけなく蘭丸は果ててしまった。
しかしまだ性欲は衰えない。
それどころか尻奥が熱くて、前を弄るだけでは物足りなく感じていた。
「・・・・・っ・・・、・・」
蘭丸は戸惑いながらも腰を曲げ、片足を自ら持ち上げながら大きく股を開いていく。
誰もいない部屋で自分一人で恥ずかしい体位になって自慰にふけっている。
その堕落した姿は蘭丸の心をはげしくかき乱したが、止まる気も止める気も
もはやなくなっていた。
「・・・いけませぬ・・・このような・・・」
ただ自分に言い聞かせるように目を眇め呟く。
それなのに自分の言葉ですら甘美な響きを持って内奥を煽ってきてしまう。
蘭丸は自らの人差し指を菊門へ押し当てた。
「あっ・・・!」
そこは少しだけ湿っていた。
先ほどの男の指が蘭丸の精液を絡めたまま触れたからだ。
蘭丸は禁を犯すかのような快感にとらわれ、恍惚とした表情で呼吸を荒げた。
「・・・っ、ん・・・」
少し背を丸めて指の先端を突き入れてみる。
きのこのせいで力が入らなくなっているせいか、人差し指は存外簡単に
飲み込まれていった。
ずるりと内壁を刺激していく指と、股間の茂みや筋が浮いた肉棒をなぞっていく
腕の感触がうっとりするほど気持ちがいい。
蘭丸は唇をしどけなく開いたまま自分を支配する快楽に酔いしれた。
「・・・っふ・・・、ぅん・・・あっ!んあっ・・・上様ぁ・・・ぁんん」
何度も秘部を貫いていく指の先端がようやく全てを満たしてくれた気がする。
蘭丸は信長の顔を思い起こしながらもう一本指を増やし秘部を弄った。
信長の動きを思い出すように、信長の仕草を思い出すように、尻奥のどこかを探っていく。
手首より少し上の部分を陰毛がじゃりっと擦れていった。
「・・・あ!!」
指にこりっとあたる部分を見つけた瞬間、蘭丸の身体は大きく跳ねた。
おかげで胸においてあった脇差ががたんっと音をたてて畳へと転がってしまう。
「ぃあっ!・・・ぁ、あっ、ああっ」
蘭丸は取り付かれたようにそこを何度も指の先端で攻め立てた。
ついには極まって再び種を放ってしまう。
悦楽に浸りきった体に己の飛沫が飛び散っていくと、蘭丸は足を抱えていたほうの
指でそれを掬った。
「はぁ・・・ぁ、はぁ・・・んぅっふ・・・・ぁ・・は、ぁ・・」
はやる鼓動と整わない呼吸。
蘭丸は少し肌蹴かけていた長衣の袂に手を差し込んだ。
指先で探るとそこにまで精液が飛んでいる。
半ば無意識のままに蘭丸は手の甲でぐいっと袂を押し開いた。
「・・・ぁあん・・・ぅ・・・・」
口端が甘えたような鼻にかかった声を漏らすと、蘭丸の指先は尖った乳首に触れる。
「ひゃあっ!・・・ぁ、だめっ・・・・ああっ」
蘭丸は蕾に押しこんだ指がきゅう、と締め付けられるのを感じた。
同時に中指の爪が最奥のいいところを引っかくのに身じろぎする。
触れてもいない摩羅からはしとどに蜜が零れ落ちた。
「・・・っ、ん・・・んっ」
自分自身でも過敏になっていることは容易にわかった。
蘭丸は抑えきれない欲情のままに己の身体をまさぐってゆく。
尖った乳首を指で何度もこね、浮かせた尻に二本の指を往復させた。
ただ思うは信長の顔。
蘭丸は信長に抱かれているかのような幻想に溺れていた。
すべては催淫のため、蘭丸は貪るように幾度目かの精を放った。


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