Original Boys Love Novel. かずあやシリーズ

NEXT or EXIT?
EXTENTION --5







「もう、和輝は戻ってこないに参案の人」
貴子が和輝の部屋でそう告げると、一緒にいた高野と葛篭貫が片手を上げた。
明日は土曜日だ。
恋人と和解したであろう和輝が戻ってくる確率など無きに等しかった。
もちろん和輝の部屋で団欒していた彼らも流れ解散ということになる。
和輝の幼馴染みである貴子と別れ、高野と葛篭貫は駅方面へと歩き始めた。
「まさか和輝が男と付き合うとは。なぁ?」
先ほど貴子が説明してくれた事柄に高野が呟きを漏らす。
同意を促された葛篭貫も感慨深げな表情で頷きを返した。
「優等生だもんな・・・それにほら、口癖」
「ああ、俺は平凡な人生を貫く!・・・ってやつだろ?ってゆうか、それ自体がありえねぇけど」
二人はその口癖を拳片手に熱く語る和輝の姿を想像して思わず噴出した。

和輝が飛び出した後、高野と葛篭貫が”あやか”という恋人についていろいろと想像を
めぐらせていたところに、貴子が「あやかさんって男の人だよ」と
いきなりカミングアウトしてきた。
まさか和輝の恋人が男だとは思ってもみなかった。
当たり前といえば当たり前だが、あやかの名前も男名とはとうてい思えない。
すっかり目が点になってしまった二人に貴子が続ける。
「ホモAVに出てたあやかさんに和輝が一目ぼれしたんだ。笑えるっしょ〜?」
あっけらと告げる貴子にどこから突っ込んでいいのかわからず、二人は再びお菓子を齧った。

「・・・ホモAV、なんであいつは見てたんだ・・・?」
葛篭貫の疑問が増える。
「ってか、笑えないだろ。その話」
高野の突っ込みからは切れが消えた。
もともと三人は一年のときから同じクラスで、席が近くサボり仲間の高野と葛篭貫の間に
和輝が入ってきてからの縁だ。
和輝は基本的に真面目なので授業をサボったりはしなかったが、高野と葛篭貫が
適度に抜け出すことに関しても口を出してくる奴ではなかった。
屋上で食べていた昼飯を共に取るようになって、しばらくしたらいつの間にか
いつでも一緒に行動していた。
つるむ、という感覚が一番合っているのかもしれない。
三人は三人ともがそれぞれを親友だと思っていたし、自分もそうであると自信を持っている。
和輝があやかと付き合い始めた頃に相談を受けたのも、三人に確かな信頼があったからだ。
それでも三人の中で一番真面目な、平凡というには容姿も学力も伴っていない奴だが
優等生だった和輝が恋愛の横道にそれたなど考えてもみなかった。
貴子のカミングアウトはこの二人にかなりの衝撃を与えたのだ。
「・・・そういえば、和輝。初対面でいきなりやっちゃったっていってたよな?」
「言ってたな」
思い出したように告げる高野と相槌を打つ葛篭貫。
「うわー!ってことは、男とやっちゃったってことか!?」
高野が両手をこめかみにあてて絶叫する。
駅までの道のりはさほど遠くはないが、住宅街を抜けて商店街の駅へ行くため
まだ人通りは激しくない。
おかげでこの絶叫も近所迷惑ではあるが奇異な目で見られることはなかった。
「なんだよ今更。お前、男と恋愛する奴なんて嫌いだーって口か?」
葛篭貫の口調が不機嫌なものに変わってくる。
それぐらいで掌を返したような態度を取る人物を友達に持った覚えはないからだ。
「いや、和輝が選んだ相手なら文句ねぇって。あいつが俺らのやることを尊重して
口を出さずにいてくれるように、俺だってとやかく言うような真似はしねぇよ」
高野はつん、と立った前髪をくしゃりと撫でた。
「ただ、その・・・相手の男って・・・つらくねぇ?和輝が女役やってるとは思えないしさ」
すっかり日の暮れた、短い街灯の光が指す道を歩きながら葛篭貫は
小さな笑いを落とす。
”男とやっちゃったってことか!?”
不器用な友人の言葉。
和輝が男とやったことが問題なのではなくて、やってしまった相手への
気遣いから出た言葉だったのだ。
高野はさっぱりとしていて男気溢れる熱血系な性格だ。
だからこそ思ったことはすぐ口にするし、配慮にかける点も多い。
けれどいじけた考えや蔑んだ考えを持つような男ではなかった。
実は三人の中で一番純粋なのかもしれない。
反対に葛篭貫は冷めた性格の持ち主だった。
いつも枠の外から物事を眺め、いろいろな角度から吟味して判断する。
意外に子供っぽい二人をまとめる、というのが目下葛篭貫の役どころだった。
いつでも客観的に物事を判断するクセや必ず相手の立場になって考えるという
性格が二人には付き合いやすかった。
馴れ合いならばいくらでもできるが、相手のいろいろな部分を理解して許容するという
ことは誰にでもできることではない。
この三人は根本的な部分で相手を否定することはなかった。
「そりゃあ、まぁ・・・それなりにつらいな。でも悪くないぜ?やられるほうも」
葛篭貫が告げた。
瞬間、高野の動きが止まる。
「・・・ん?なんだよ、高野。置いていくぞ!」
足が止まったままの高野に、先を進んだ葛篭貫が振り返った。
「・・・・・お、お前・・・男とケーケンあるのか?」
いっきにいろんな情報が流れ込んできて、高野の脳みそはパニック状態だ。
それでも脳裏にひとつ浮かんだ疑問をしっかりと口にして。
葛篭貫は一瞬きょとんとした表情をみせたが、高野のほうを振り返ったまま頷きを返した。
「あるよ。だって俺、男ヘーキだし」
「な、なにー!?」
たしかに、葛篭貫は非凡な容姿をしていた。
最近は枯れ葉色に染めたさらりとした質感の髪に、薄茶褐色の凛とした双眸。
柔らかさを容易に想像できる潤った唇とクールな印象の風貌。
そういえばプールの時など乳首がピンク色だった気がする。
・・・などとこまめに思い出している場合ではない。
高野は更なるパニックに陥りながらも平静を装おうとしていた。
「葛篭貫、だって・・・俺と一緒にナンパとかしてたじゃん!?お持ち帰り、してたよな!?」
「別に女嫌いじゃないし。ただ、今付き合ってんのは男」
今現在の話ときたか、と高野は眩暈を覚えた。
親友のうち二人ともが男と付き合っているというのだ。
高野にとって一日に起きてしかるべき事件の範疇を超えていた。
「付き合ってるのが男って・・・お前簡単に言うなぁ」
「簡単じゃん?和輝はノーマルだけど好きになった相手が例外だっただけで、俺のはバイって
いうやつなだけで・・・高野、まさか俺の選んだ男にケチつけたりはしないわよねぇ?」
わざとらしく葛篭貫がおねぇ言葉で擦り寄ってくる。
おかまの仕草は葛篭貫なりの牽制だ。
そういう態度の葛篭貫を高野が少しでも嫌がろうものなら罵詈雑言を浴びせてくるだろう。
「言わねぇけど、誰だよ。付き合ってるのって。お前そんなそぶり見せなかったじゃんか」
もうこの友人どもには何を言っても無駄かもしれない、と思い直した高野がようやく歩き出す。
実際どうでもいいのだ。
和輝は和輝だし、葛篭貫は葛篭貫だから。
「んー、高野は恋バナしないくせに俺だけ要求されるって卑怯くさくね?」
葛篭貫の回答に高野の唇がとがった。
「うわ、お前・・・今俺が付き合ってる奴いないってわかってて言ってやがるな?」
「・・・・・いないなら、俺と付き合うか?」
そう含み笑いをする葛篭貫の視線と高野の視線がぶつかった。
綺麗な顔をしていると、高野は唐突に、だが心底思う。
気付いていないわけじゃなかったが意識をしていなかった。
ふいに高まる動悸。
見詰め合う視線を外すことができない。
想う気持ちは突然膨れ上がり、友情という壁はこんなにも簡単に壊れてしまう。
「・・・なーんてな!別に俺、高野は好みじゃないから安心しろよ」
・・・わけでもなかった。
あっけらかんと笑う葛篭貫を横目で見ながら高野は無言で歩き始めた。
「あっ、おい。無視すんなよ、俺のギャグを!」
こんな奴になんとなくときめいてしまった高野は胸に手を当てながら動悸を落ち着かせていく。
意地悪な友人。
点滅する街灯。
どこか違う世界に迷い込んでしまったかのような困惑に、高野は小さくため息をついた。
葛篭貫の言葉が冗談だったことがちょっと悔しかったなんて、死んでも言えないから。
とりあえずはこの友人を無視して駅まで行こうと心に誓う高野だった。


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