シャワーを体中に浴びながら、雪夜はゆっくりと目蓋を閉じた。
「・・・・・」
言葉は出てこない。
それでも心地よい疲労に包まれた全身は、佐渡里と交わった感触を思い起こさせた。
あんなに激しく、しかも上手いとは思っていなかった。
無骨で不器用な佐渡里のことだ、多分それほどの経験はないだろうと踏んでいたのに。
意に反して、佐渡里は雪夜を絶頂へと導いたのだ。
佐渡里の言葉が耳に残っている。
”…欲しいか?コレが。”
”エロいなァ〜、姫嶋”
・・・今思い返すと、本当に慣れているように感じられるのだ。
あんな台詞すら軽く口をついて出てくるくらいには。
「・・・ッ、・・・」
小さな針が胸につきんと突き刺さった気分だった。
計画通り、上手く体を手に入れることができた。
それなのに頭痛を伴う苛立ちは消えるどころか重さを増している。
「・・・なんで・・・」
唇から漏れた呟きはシャワー音へとかき消される。
雪夜はふいにシャワーノズルを振り上げると、大理石でできた風呂タイルに
思い切り投げつけた。
ガツーンっと大きな音が響いてスプリンクラーのようにノズルが床を這う。
誰と。
誰が。
頭の中でそう木霊して、雪夜は唇を噛んだ。
”佐渡里”が、”誰か”と、”している”ところなんて。
想像するだけでも胸元が焼けるような気がした。
シャワーのノズルがコツン、と雪夜の爪先をつつく。
半分ほど伏せられた瞼はそれに動ずることなく、雪夜は水圧を調節する
ボタンへと指を伸ばした。
綺麗に整えられた爪が引っかくようにシャワーを止める。
すぐに水音は消え、上がる湯気の隙間に雪夜の肢体が浮かび上がってくる。
「・・・佐渡里・・・佐渡里・・・」
名前を二度、呼んで。
けして返ってはこない返事に苦笑しながら頭を横に振る。
髪先から滴り落ちる水滴は、肩に当たって再び弾かれた。
「おはよう」
執事の田村に声をかけ、何食わぬ顔をして食卓へと進む。
あの後、佐渡里が寝ているうちに自室へと戻った雪夜は普段通りの時間に起き
支度を済ませていた。
この動揺を彼に悟られてはならない。
無限のポーカーフェイスを決め込み、佐渡里が部屋に現れるのを待った。
一世一代の駆け引き。
絶対に成功させなければならない最初で最後の舞台。
愛を語りそうになる瞳は、軽く伏せて。
最高の笑みを貴方にあげる。
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