絶対無敵に恋人志願


Vol.4 Jack-in-the-box


「どうぞ。」
男のモノとは思えぬほど、ほっそりとした白い指。
それが内ポケットからカードキーをスルリと引き抜き、扉に差し込む。
その様子を呆然と眺めていた佐渡里は、柔らかな声音にハッと我に返り、
恐る恐る玄関に足を踏み入れた。
擦れ違い様、ふと佐渡里の鼻先を掠めた爽やかで甘い香りに、
彼は何故だか落ち着かない何かを感じた。
それを振り切るかのように後方で扉がパタリと閉じられた。
一瞬の物思いを振り切り、佐渡里は部屋の中へと入ろうとするが、
玄関だけで数畳はあろうかという広さに思わず目を瞠った。
そしてクシャッと髪を掻き上げながら、言い辛そうに呟いた。
「…なァ、姫嶋。ここって靴何処で脱ぐンだ?」
あまりに間抜けな事を聞いた佐渡里にここの主は、口端を僅かに上げただけで
速やかにスリッパを出し、中へと導いてくれた。
…本当に、姫嶋は変わってないんだな…。
佐渡里は、仰々しい建物や内装に居心地の悪さを感じ、柄にも無く僅かな緊張を
強いられていた。
しかし、ふとした所に変わらぬ姫嶋を感じ、相好を崩した。
…無愛想というわけではなく、ただ表情が薄いだけ。
そんな印象を学生時代から佐渡里は姫嶋に受けていた。
良く見ると顔のパーツの節々が僅かながも綺麗に動いていたからだ。
それをちゃんと佐渡里は見ていた。
何故なら姫嶋は、いつも抜けた事を言ってしまったりする佐渡里を
馬鹿にすることなく、自然にフォローしてくれていたからだ。
他の友人と比べても特に仲が良かったという訳ではなかった。
ただ困った時や何かあった時、いつも側に姫嶋がいてくれた…そんな気がしていた。
だから佐渡里の記憶の中で姫嶋は、特別だった。
ずっと気にはなっていたのだ、姫嶋のことが。
姫嶋が何かあった時には、自分が何かをしてやりたい…そんな気持ちがずっと
心の中に潜んでいた。
しかし、隙のない彼にそんな事は起こらず、特別な接点もなく卒業を迎え、
勤めだしてからは、仕事に忙殺され、そんな気持ちもいつしか心の奥底に
眠ってしまっていた。
姫嶋のマンションはいわゆる億ション、というモノだ。
建設資機材関係を色々と扱った商社にいた佐渡里は、それに関連する内装、
家具などのことも多少の知識はあった…が、しかしここは凄い…。
家具や装飾がロココ調の細工が施されたどれも超高級品ばかりだ。
色は圧迫感のないベージュや柔らかな茶の色彩に抑えられていたが、
キュリオケースに並べられたグラスやカップは、一客ウン拾万で
取引されている某ブランドのアンティーク…では?
できるだけあそこには近づくまいと佐渡里はひっそりと心に誓った。
引越しの類は全て姫嶋の手配により、業者が済ませてくれていた。
と言っても大して荷物があった訳ではないが。
佐渡里の部屋は、姫嶋の向いにある客間の一つで、色調は全てブルーに
統一されていた。
ベッドと机は備え付けだったのか、アパートにはなかったものだが、
他は彼が愛用していた物も程好くあり、高級な部屋に似つかわしくない
雰囲気がある。
しかし、自分が過ごす空間としてはとてもホッとするもので、佐渡里は
そんなところにも心を配ってくれた姫嶋に、とても感謝していた。
動物など久しく飼っていなかった彼の部屋に、猫用のトイレや寝床なども
用意してくれたのも姫嶋だった。キッチンにはどうやら餌置き場もあるらしい。
至れり尽くせりだ。
引越しの疲れを摂ろうと姫嶋に案内された風呂に浸かる。
ジェットバスや何やらと広い風呂を堪能した佐渡里は、いい香りに誘われ
ご機嫌でリビングを訪れる。
そこには美味しそうな豪華な食事が用意されていた。
夢のような時間に、佐渡里は酔っていた。
そう、酔っているのだ、きっと。
確か自分はあの高級グラスでワインを飲み、緊張のせいか飲んだ気がせず、
注がれるままにグラスを空けた。
その後、後片付けをし、就寝した…はず…なのだが…。
この妙な感覚は…ナンだろう?
欲求不満か…?
佐渡里は、まだ回らない頭の中で必死に思い返していた、
どれくらイタしてないだろうかと…。
あまりの良さに、思わず己の迸りを解放したくなる。
しかし、冷静に考えればここは姫嶋の家。
いい年して欲求不満で夢精をするわけにも…と思い、渋々現実に戻ることにする。
ゆっくりと目を開く。
しかし、下半身の己の肉棒に絡まる心地よさはそのままだ。
ハッとし、佐渡里は首を起こし、ガバッと上掛けを剥いだ。
そこには己の肉棒にむしゃぶりつく彼が、廊下から漏れる光でうっすらと
淫らに映し出されていた。
「…!?ハッ?き、姫嶋ー?!――ゥっ!!」
あまりに情欲をそそる扇情的な光景に抜き差しなら無い所まで追い詰められていた
佐渡里は、その美しく淫らに動く赤い唇に熱い迸りをぶちまけてしまっていた…。
なんだ?これは。ナンなんだ?一体何がどうなっているんだ?
強く性急な快感に身を任せつつ、佐渡里は必死に現状を理解しようとしていた。




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