机の上に整然と並べられた札束。
額にすればいくらぐらいになるのだろうか。
少なくとも一千万単位であることはその量を見れば一目瞭然だった。
その前で黒皮のソファに腰を深く収めた姫嶋雪夜(きじま せつや)は艶然と微笑んでいる。
髪のこぼれひとつをとっても一部の隙がないといえる端正な容姿。
中性的な魅力あふれる顔立ちだが、女々しさは感じられない凛とした態度が見て取れた。
「これで手を打ってくれますね?」
肘当てに腕を置いて片方の手は頬杖をついた格好で。
薄く紅を引いたかのように誘う唇が笑んだまま雪夜が告げた。
彼の視線の先にいる中年男性は息を飲みながら頷きを返す。
透明な声音はどことなく重い圧力を押しかけるように相手の耳に響くように計算されていた。
中年男性の答えを満足そうに受けると、雪夜は付き添いのSPに視線をやる。
それを受けた体躯の良いSPはビジネスバッグから契約書のようなものを取り出した。
「ではここにサインを。約束を違えた場合、三億の賠償金を払ってもらいますので」
涼やかな目元が念を押すように細まった。
中年男性は注意深く契約書に目を走らせていたが、やがて白い枠の中へと自分の名前を
書き込んでいった。
「商談成立、よい契約をなさったと思いますよ?社長」
柔らかな茶の髪が揺れ長い睫が瞬きに影を落とす。
しなやかな指先は契約書をゆっくりとなぞり、それを拾い上げて自分の口元へと
移動させた。
「なにせ、佐渡里晃次(さわたり こうじ)をクビにするだけでこの金が手に入るんですから」
絶対的な有利の立場に立つものだけが許される微笑を浮かべて、雪夜は契約書に
口付ける。
これから起こす、運命へと期待を寄せて。
最初に仕掛けたのは罠。
嘘つきな唇がこれから仕掛ける罠。
落ちた獲物をどう料理するかは、ハンターの特権。
さぁ、これから考えよう。
君をどうやって堕落させようか。
|
|