Original Boys Love Novel 12

TARGET
KISS TO KISS SIDE STORY


AV男優であるあやかは、端正な唇から溜め息を漏らした。これから仕事へ行かなければならない。
・・・つまりアダルトビデオの撮影に行くのだ。けれど、あやかは気が乗らなかった。
いつもならば仕事は仕事と割り切れるのに今日はなぜか知らない相手とセックスしたくないのだ。
なぜこんなにもナーバスな気分になったのだろう。あやか自身、検討もつかない。
ただ、友人の霧島貴子がよく話す「藤臣和輝」という男が、胸の奥でひっかかっている。

ドウシテダロウ?

あやかは中指を舌でなめ、そのまま唇をなぞった。中指の熱が、唇にじん、と伝わってくる。

キスシタイ?

高校生の知らない男に欲情している。そんな自分が汚く思えて、あやかは首を振った。

ダキシメテ、ソノウデデ。
クチヅケテ、ソノシタデ。

あやかは車のキーを握り締めると、マンションの扉を開いた。
オートロックのため鍵をかけずにそのままエレベーターに乗り込むと、あやかはもう一度、
今度は熱のこもった溜め息をつく。こんなふうに心臓が早くなるのは、欲求不満のなせるわざだと勝手に解釈をして。
一度だけ、本気で人を好きになったことがあった。けれどその恋心が最も最悪な形で裏切られることになってしまったのが、
今もあやかの心に深い傷痕を残している。
それ以来、あやかは恋することに臆病になってしまった。その艶やかな容貌に相反して・・・。
1階につくと、駐車場にある自分の車のドアロックをリモコンで開けた。あやかの車はシルバーのロータスだ。
よく人から「似合わない」と称されるが、220キロを軽く出す性能があやかにはお気に入りだった。
午後も近い太陽はシルバーのボディをあざやかに反射させ、乗り込んだあやかの顔さえも美しく彩る。
そしてアクセルを一度ふかしたロータスは、リズムの良いエンジン音を残して東京一等地のマンションを後にした。

今日撮る予定のビデオは、パッケージ商品として売り出す予定のきちんとしたAVだ。
いわゆる流出モノと総される品とは一味違う。
なにが違うのかというと、新宿二丁目などにあるゲイショップの店頭に並んだり、
ホモ雑誌に広告が載ったりするところが、違う。
パッケージ商品は会社が責任持って売り出しているもので、流出とは違い保証もある程度ついている。
普通のアイドル商品などと同じように思ってくれていい。事務所が公認で出すものと、ばったもんとの差ぐらいなものだ。
まぁ、結局一度普通のビデオテープにおとしてからダビングするのだから、パッケージも流出モノも中身に違いはない。
勿論、パッケージには修正が必ず入るが。
あやかなど、出演している男優たちにはダビングする前の無修正のビデオが渡される場合もある。
別に興味があるわけではないので、あやかはそのビデオテープを友人に(霧島貴子だが)あげていた。
自分が出ているAVで抜くわけにもいかないからという理由が第一候補なのだが、
もうひとつの理由としてはあやかは自分の顔にコンプレックスをもっていたため、表にどーん、と
裸の自分がいるビデオを家においておけるはずがなかったのだ。
幸い貴子も見たがったので、利が一致した後の処理は早かった。
あやかは形ばかりの台本を助手席から引っ張り上げると、タイトルを見てめまいを起した。
「激しく3P!二つの肉棒がアナルをえぐる!・・・」
声に出してもしまりのないタイトルだ。たぶん犯られるのはあやかだけで、大変なのもあやかだけだろう。
やる気が起きないのも仕方ない事だと思ってしまう。
このまますっぽかしてもいい気がするが、監督もカメラも知り合いの人なので、それすらもあやかには選択できなかった。
困ったものだ。
しかもそうこうしているうちに自慢のロータスは撮影所まで着いてしまった。撮影所と大層に言っても、
マンションの一室を借りているだけのものだが。
RCセクションというAV会社は大抵ここで撮影を行なっている。
今ではダイアルQ2にもホモチャンネルが出来るほどホモがメジャーになっているため、
相当数のAVを世に送り出しているのだろう。
あやかはロータスを駐車場に入れ、マンションの暗証番号を入力した。
慣れた手つきでドアを開くと、最上階の7階までエレベーターで昇る。
RCセクションはこの業界では大手なほうで、契約男優数が多く器材も充実しているのであやかは割と気に入っていた。
出演に対する報酬も十分くれる。普通のAV男優などもらって5万程度のものなのに、
ホモビデオの出演料はその10倍以上にはねあがる場合もある。
だからRCセクションはホモ男優に人気のビデオ会社なのだ。
あやかは特に金銭に対して困っているわけでもないのだが、今ではRCセクションの看板とまで
言われてしまっているので、出演依頼がまめにくる。知り合いも勤めているせいか結局5割の確率で出演している。
エレベーターの扉が開くと、すぐにRCセクションと書かれた表札が目に入ってきた。
あやかはチャイムを押すと関係者が出てくるのを待つ。
しばらくすると、見慣れた男がドアを開けた。
「おう、あやか。重役出勤とはやるな?」
すでに待ち合わせの時間から1時間半を超えて登場したあやかに嫌味を言いながら、男は手招きをする。
あやかはといえばそんな彼に対して柔らかな微笑みを向けている。
先の言葉が本心ではないということくらい、目をみればわかった。
あやかは、AVを撮る前のナイーブになっている気持ちをほぐそうとしてくれる彼の気持ちが嬉しいと、心から思っていた。
「遅れてすみません。ちょっと気分が乗らなくて・・・」
正直に自分の気持ちが伝えられるのは、この男がRCセクションの企画部部長兼プロデューサーという肩書きを持つからか。
「ん、まあ何というか、そういう日もあらぁな」
男が鼻の頭を小指で掻きながら、呟く。
「坂崎さん・・・」
いつになく、あやかは温かい気持ちになった。プロなんだから時間は守れ、
とか気分が乗らなくてもセックスさえしてくれればいい、なんて罵られるかと思っていたのに。
実際、そう言われて手を切ったAV会社も中にはある。
坂崎とあやかはフローリングのダイニングを突っ切って撮影現場となるベットルームへと足を伸ばした。
すでにそこでは撮影スタッフが反射板やハンドカメラをセッティングする姿が見える。
坂崎はあやかのコートを壁のフックにかけると、疲れたようにソファへ体を委ねた。
「どうかしたんですか?」
そのただならぬ様子に、あやかの口からつい疑問の声が漏れる。
すると、後ろで作業していた男が肩にカメラを乗せたままあやかたちを振り返った。
「よくぞ聞いてくれたね、あやかちゃん」
涙を流す演技を過剰に表現しながら、あやかの肩を叩く。
「青木さん、おはようございます。」
業界人らしく昼過ぎのあいさつでもおはようと言うと、あやかは青木から詳しい話をしてくれる様うながした。
「それがさ、今回の内容って3Pの予定だったじゃない。でも相手役の男の子の一人が今朝階段から落ちて
右足の脛を骨折しちゃったのよ。それで社長が他の子に代役頼んだんだけど、ここに来る途中バイクで事故っちゃって、
やっぱり撮影は出来ないって連絡がきたの。今更もう一回代役を探すってわけにもいかないし、
あらどうしましょーって困ってんのよ、みんな。スタッフの誰かが代わりになれれば良いんだけど、
ギリギリの数しか撮影には連れてこないしね」
そうして溜め息をつく。そんな事情を聞いたあやかは別段とまどうことなく、あっさりと青木に言い返す。
「内容を変えればいいんじゃないんですか?」
別にAVのシナリオなんてあってなきがごとしなものだし、
その通りに演技したからといって、結局ベットシーンに関してのシナリオは書いていないことのほうが多い。
臨場感がなくなるせいなのか、セックスシーンだけは予測がつかないのか、理由は特にわからないが。
「そ、そうは言ってもあやかちゃん、ビデオの前でいきなりアドリブなんて出来るの?」
慌てて青木が聞くが、あやかはよりいっそうあでやかな笑みをたたえながら大胆不敵にうなづいた。
「だから、内容を変えればいいんですよ。隠し撮りみたいに部屋を暗めにしてセックスだけ映すの。
それなら余計な演技はいらないし、RCセクションとしては新しいタイプのAVになると思うんだけど」
そこまで言うと、あやかは坂崎を振り返った。最終的な判断はまかせる、とばかりにめくばせをする。
坂崎は青木とあやかのやりとりを一部始終聞いていたようで、すぐにOKのサインをだした。
「決まりだね。じゃあ、シャワー浴びて来る」
あやかはウィンクをすると、奥の部屋に姿を消した。
「大丈夫なの?」
坂崎に青木が問う。あやかに対する態度とは違い、カメラマンとしてのビジネスフェイスで。
「心配ないだろう。だいたい今回の相手役だって変なセックスをするような奴じゃないし、逆にふつーっぽいのが
受けるかもしれないしな」
坂崎の言葉に青木も安心したのか、持っていたカメラを肩から下ろす。
「そうね、そうよね。なんたって、RCセクションの看板男優、あやかだもんね。カメラの前で脱ぐだけで、
失神者が出るわよ、きっと」
言うと同時に、ウィンクをする。青木の冗談に坂崎も軽い笑みを漏らした。

あやかは静かにシャワーのコックをひねった。少し待つと、すぐに温かいお湯があやかの体を濡らし始める。
「少しはましかな、3Pよりは・・・」
思わず溜め息が出てしまう。たまには普通のセックスをしたいとか思ってしまうのは贅沢な悩みなのか、
はたまた当然の望みなのか。
ともかくあやかは自分の提案が通ったことに胸をなでおろしていた。
同時に、この世界に入っていなかったら、などと余計な考えを抱いてしまう。
もし、AV男優などでなかったら。普通の人生を歩いていたかもしれない。
女の子と恋愛して、会社に入って、ありきたりだけれど安定した生活を、送っていたかもしれない。
たとえ今のようにホモだとしても、知らない男性と寝続ける自分ではなく、
本気で好きだと思える相手に告白されて一喜一憂する自分になっていたかもしれない。
もちろんあやかはそんな考えを抱いても、すぐに現実を認識することが出来るリアリストだ。
もしも、なんて世界があることに精神を委ねるだけの人間にはならない。
だからこそ、自分を自分で追い詰めてしまうのかもしれないのだが。
けれど時々思ってしまう。今度恋愛するのならば真面目で嘘なんかつけなくて、
ありったけの愛を自分に注いでくれる人にしよう、と。
そう、最近いつもどこかしらで気になっている「藤臣和輝」のような。
「・・・だから、どうして会ったこともないような奴のことを思い浮かべるんだよ、僕ってば」
そう呟いたあやかだが、本当は知っていた。多分「藤臣和輝」を意識し始めている自分を。
貴子から話しを聞けば聞くほど、興味が湧いてくる。
例えば運動会で一位をとったとか、実は恐い話が苦手だとか、
たわいもない日常生活の話を聞いているうちに「藤臣和輝」という人間を身近に感じてきたのだ。
そう感じたら、どんどん惹かれていった。あやかが自分から逢いたくなる人物なんてそうそういないというのに。
逢いたいと、思ってしまったのだ。
「何でかな」
その理由を知るにはまだ早い。
あやかはシャワーを止めると濡れた身体のままバスローブをはおり、洗いたてのタオルを頭に広げた。

あやかがシャワー室からでてくると、見たことのない男がジーンズ一枚の格好でダイニングキッチンにいた。
今回の相手役らしきその人物は、あやかがリビングに戻ってくるのを確認するとカクテルを手渡してきた。
リンゴとコニャックの、白濁色のカクテルを。
「ありがとう」
渡されたカクテルを一口飲むと、あやかは礼をいった。風呂上がりで上気した白い喉を、液体が冷やしてゆく。
「俺、石原幸治って言います」
男は、およそ家庭教師でもしていそうな程さわやかな青年だった。握手を求められてあやかは彼の手を握ったが、
がっちりとした骨格に無駄のない筋肉は何かスポーツをしていた事を明確に表している。
あやかは火照る頬にカクテルをあてると、頭にかけていたタオルをソファにいる坂崎に投げ渡す。
「やろう」
カクテルを一気に呷ると、あやかはAV男優の顔になった。
濡れたように瞬く瞳の奥には、男の欲望に火をつけさせる何かがちらついている。
スタッフ達は出演者の気がそがれないよう、声を、存在を打ち消して撮影に取り掛かる。
あやかに言われたようライトも最小限におさえ、ベットのまわりには特別な空間が造られた。
「・・・抱いて」
唇を少し開けたまま、あやかはバスローブの紐を解く。
シュル、と擦れた音の後、白く滑らかな肢体がカメラの前で露にされた。
濡れた髪から滴が一筋落ち、鎖骨を通って華奢な胸へと落ちる。
すでにそこには、官能的な空気が流れていた。あやかはこういった空間を作り出す天才といってもおかしくないと思われる。
視覚的に、聴覚的に、相手の全神経を刺激して性欲をおこさせてしまうのだ。
幸治はあやかの頬をなでると、首筋に舌をはわせた。ごつごつした指が耳の裏側をそわそわとなぞってゆく。
その間に、あやかは幸治のジーンズのボタンをはずすしてジッパーを下ろした。
そしてあやかが自分の身体に反応したそこを軽くなでると、幸治があやかをベットに押し倒す。
「あっ」
バランスが崩れ、思わず声を漏してしまう。そんなあやかの唇をはさみこむように唇で塞ぐと、甘く吸う。
じん、とした熱が伝わってくる。
そこでふと、またあやかの脳裏にある男の名前が浮かんできた。
それは「藤臣和輝」。会ったこともないのに、あやかは「藤臣和輝」が真面目で、照れ屋で、不器用な性格だと知っていた。
幸治は、そんな「藤臣和輝」に少し感じが似ているように思える。
勿論会った事などないのだから、あやかの想像上の「藤臣和輝」に、だが。
どちらかというと、似ているというよりも、似ていて欲しいという思いなのだろうか。見ず知らずの男に抱かれるのならば、
いっそ話しを聞いて親近感を持っている会ったことのない男に抱かれていると思ったほうが、精神的に楽なのかもしれない。
あやかは口付けをしながら、両腕で幸治の首を抱き締めた。そして彼を押し倒しかえすと、一気にズボンを脱がせてしまう。
「してあげる」
上目使いにそう言い、熱い舌を幸治のモノにそっと押し当てた。たまらず握った幸治の手によってシーツが乱れる。
あやかがそれを丁寧に唾液でしめらせてゆくと、次第に大きく形づくられていった。
白い手が、張り詰めて蜜を滴らす先端を強くこすり上げる。
赤い舌が、一気に根元から先端を舐め上げる。黒く濡れた瞳が、そんな幸治の体を捉えてイクことを促した。
「・・・っ」
すこしきつそうに幸治は片目を閉じた。強烈なまでの快感。それをあやかは与えてくれる。
時には優しく、時には強く、波が寄せては返す。感じるのは、互いの息と熱い舌の感触だけなのに。
「あ・・・はっ」
はずかしさからか幸治は両手で顔を隠してしまう。
あやかはそんな彼にちらり、と視線を送ると唇をすぼめて先端に口付けをした。
一番敏感な場所を柔らかい唇が触れ、幸治は奮えながら精を放った。
「はぁ・・・」
惰状的なしびれが甘やかに全身を覆い尽くす。大きく肩で一息つくと、幸治はあやかを振り返った。
「あっ、あっ」
その瞬間、幸治の耳にあやかの悩ましい声が響いてきた。見ると、あやかが足を大きく広げて自分のモノをいじっている。
誘うような仕草と、熱い吐息。幸治のモノはすぐさま反応してしまう。
生半可な女など太刀打ちできないほどの、色香。
それはただあやかの顔が美しいから、とか偽りない痴態をさらしているから、などという簡単な理由からだけではない。
その身体の奥底から湧きあがってくるような性欲をかきたてるのは、花の香り。フェロモンと呼ばれるものだ。
これだけは、選ばれたものしか与えられていない人類最大の武器である。
そしてあやかは、自分を魅せる技を本能的に知っていた。他人と同じ事をしていても、自然と人より目を惹いてしまうのだ。
そういった身の内にある華を、男は女よりもかぎわけやすい。あやかの艶ある色香に、つい心惹かれてしまうわけである。
「うぅん、はぁ」
唇の端からちらちらと見える舌で、あやかは自分の指を濡らす。
そしてその指で胸の突起に触れると、再び甘く鳴きながら背をのけぞらした。
幸治はほのかに火の灯った体をあやかに近づけると、後ろからそっと抱き締めた。
「好きだよ。あやかが、欲しい」
素のまま言われた言葉が、あやかの耳に心地好く響く。あやかは肯く代わりに彼の手を自分のモノに導いた。
「ね、いかせてよ・・・」
幸治の息遣いが首元で感じられる。それすらも快感になるのか、あやかは軽く身震いをした。
あやかの背に胸をぴたりとつけて、幸治はあやかのモノをやんわりとシゴき始めた。
しゅっ、しゅっ、と耳にえっちな音が響いてくる。
何だかいつもよりも感じている自分に、あやかは動揺を感じながらも腰を突き出した。
今はもう、理屈なんていらない。
キモチイイ事が好きで、たくさん感じたくて、ただこうして誰かと肌を重ねていることが心地好くて。
それだけの事だから。
「あっ・・・はぁん」
熱い息が喉元を焦がしてゆく。弄ぶように先端から根元までを幸治の指先がなぞっていった。
すでに下股には我慢しきれなかった白い液体が表に出てきている。あやかの感じやすい体に気を良くしたのか、
幸治はあやかのモノをぎゅっと強く握ると、そのまま激しく手を揺らし始めた。
「あっ、あっ・・・!」
目尻にうっすらと涙を浮かべながら、あやかは高ぶりを押さえることなく開放感に身を委ねた。
「たくさん出したね。そんなに良かった?」
あやかの出したものが汚した指をわざと目の前にちらつかせながら、幸治が告げる。
およそセックスとは縁遠そうなさわやかな笑顔に、あやかは思わず苦笑してしまう。
こんな顔でエロティックな言葉を言ったとしても、相手はなかなか感じてくれないだろうに。
「・・・ん、っ」
自分の精液がついた幸治の中指を、あやかは舌を出して舐め上げた。そしてそのまま口の中へ咥えてしまう。
「入れて欲しい?ここに・・・」
言いながら、幸治はあやかのお尻に手を伸ばした。なめらかな肌をするりと撫でて、蕾の入り口に指を置く。
あやかはやや恍惚とした表情のまま深く肯いた。
「い、れてっ」
体を曲げてうつぶせに寝転がると、あやかは腰を高く突き出すポーズを取った。
足を大きく開き、何もかもが見えるその姿に、思わず幸治は生唾を飲む。
そしてベットの脇に置いてあったゼリーの瓶の蓋を開けると、三本の指にたっぷりと塗り取った。
「ちょっと我慢してね」
幸治のごつい指があやかのソコに入ってゆく。
「ああっ!」
いきなり2本の指を入れられて、あやかが激しく身悶えた。気が変になってしまう程の強烈な快感に思考を奪われてしまう。
「あ、ああっ・・・ん、はぁ」
口内の唾液が唇の端から顎につぅ、と落ちてきた。2本の指は容赦なくあやかの性感帯を責めてくる。
そしてあやかのソコも指の出入りに合わせて収縮を繰り返している。
「増やすよ」
言うや否や指が3本に増えた。
「・・・いや、あぁ」
指を四方に振りながら、あやかの肢体が奮えた。このイキそうでイケない感覚を早く終らせたくて、自らも腰を淫らに揺らす。
何だか意識が混濁してきて、もう誰とやっているのかさえ解らない。
あやかは意識下の中で、「藤臣和輝」とセックスしている自分を想像していた。
そのせいか、思わず唇の端から声が漏れてしまう。
「あ、あ、か・・・ずきっ」
幸治はその言葉を聞いて一瞬動きを止めると、指をまとめて引き抜いてしまった。
「やっ、抜かないで!」
眉根を寄せて幸治を見上げたが、当の幸治はあやかの身体を回転させて仰向けに寝転がらせてくる。
そしてあやかのモノ欲しそうな唇を甘く吸った。
「・・・ん」
しっとりと湿った感触が口内を舐め上げてゆく。しばしその感覚に酔いしれていると、
今度は胸の突起を指先で軽くつままれてしまう。
「あんっ」
ずれた唇からあえぎ声が漏れると、幸治は再び口付けをよこした。
からみあう舌の刺激と胸の愛撫で、とろけそうな快楽が身を突き抜けてゆく。
今まで味わったことがない様な悦楽に、あやかはすべてを奪われていた。
「・・・っふ」
ふいに幸治の腰が前にずれた。と、同時に幸治のモノがあやかの後ろを犯してゆく。
「あ・・・ぁ、っ・・・」
双丘を割って進入してきたモノは奥までいくと一度進行を止めた。
しかしあやかが一息つくのを見ると、激しくその塊をうごめかし始める。
「んぁ、はぁ、はぁ、・・・やっ、だめ、壊れちゃうっ」
両足を片手で持ち上げられたまま挿入を繰り返されて、思わずあやかが涙声で抗議する。
けれど幸治はいっこうにその攻めをゆるめようとはしてくれない。それどころか何度も腰の角度を変えて突き上げてくる。
息遣いが幸治の動きに追い付かないほど攻めたてられ、あやかは白い身体をのけぞらせた。
「っ・・・ああっ・・・」
強い刺激にあやかの蕾が食い入るように収縮する。それにはさすがに参ったのか、幸治は眉をひそめた。
「あやか、あやかっ」
余裕のない声があたりに散乱する。
「・・・んうっ、あ、っく」
肉棒が奥壁をこすり上げ、両足が緊張でびくびくと奮える。あやかは幸治の頭を抱え込んだ。
「だ、だめっ!い、いっちゃうよぉ」
あやかが興奮の余りきつく締め上げると共に、幸治もあやかの中に射精した。
幸治はあやかと繋がったまま、放心状態のあやかの耳元にキスをする。そして、低い声で呟いた。
「やっぱり、俺のものだよね、あやか」
あやかは答えない。頭が真っ白で何も考えられないのだ。
「他の奴のことなんか、すぐ忘れるんだよね」
幸治はまくらの下に手を伸ばすと、中から何かを取り出す。仕込んだ覚えのない小道具に、青木が焦りを見せた。
「ちょ、ちょっと、やばいんじゃない?」
その瞬間、あやかの頬を鋭いナイフがかすめた。
「お、おい!」
坂崎が慌てて二人に駆け寄る。しかし幸治はもう一度あやかに向かって刃先を振りかざした。
さすがにセックスの余韻に浸っていたあやかでも、冷たい刃の感触に我に返り幸治の腹を蹴った。
がしゃーん、と大きな音をたてて幸治がベットから落ちると、すかさず坂崎がそれを押さえつけた。
「あやか、無事か!」
坂崎の言葉に奮える身体で肯いたあやかは、びくん、と前屈みになる。こんな状態なのに、勃起してしまったのだ。
熱が冷めやらない下股から、幸治の出した精液が腿をつたってはいでてくる。
「ん、ぁ」
異常なほど敏感な身体。そして、興奮ぎみの精神。あやかは自分が一服もられている事にようやく気が付く。
「あんた、さっきのカクテルに何か入れたな?」
器材のコードで腕を縛られている幸治に、あやかが問う。しかし幸治はその問いに答える気がないのか、
近くにあった椅子を蹴飛ばしている。
「あやかは俺のもんだ!あの淫売な身体は、俺が作ったんだ!」
そのセリフに青木が切れたのか、幸治を殴り飛ばす。
「ふざけんじゃねぇぞ!妄想もそこまでくりゃ立派な犯罪なんだよ!警察がくるまでおとなしくしていやがれ!」
あやかは自分の体をきつく抱き締めた。青木はそんなあやかをシャワールームまで連れていくと、
温かいシャワーをかけてくれる。
「ごめんね、あやかちゃん・・・。まさかここまでぶち切れた奴だとは知らなかったのよ。
もっとよく相手を調べておくんだったわ」
青木は必死に謝罪を繰り返している。しかし、あの幸治の容姿と態度ではナイフを持って奇行に
及ぶとは想像出来ないだろう。あやかは首を横に振ると、静かに微笑んだ。
「仕方ないですよ・・・今回は」
そう言ったが、やはり動揺は隠しきれない。いきなり刃先をむけられ、切られそうになったのだ。
今更ながらにそのことを認識した。すると、先刻のナイフの冷たい切っ先の感触が蘇ってくる。
そうして例えようのない恐怖感が背筋をなぞっていくと、あやかは頭を抱え込みその場に倒れこんでしまった。
「ちょっと、あやかちゃん?」
青木の顔がうっすらと視界から消えてゆくのを、あやかは最後まで認識できなかった。
そして、パトカーのサイレンが響いてきた。




その後、幸治は傷害罪で起訴された。
もちろんホモAV男優であるあやかが公の場に立つことにはいかないので、坂崎が代行を務めたのだが。
「やっぱクスリだってよ」
代官山の喫茶店で煙草を吸いながら、坂崎が告げた。目の前にはあやかが座っている。
「GHBって知ってるか?」
聞かれて、あやかはきょとん、とした視線を返す。
「性欲増強なうえに理性がぶっちぎれちまうシロモノだから、
ストリートネームに「デイ・レイプ・ドラッグ」なんてついてるんだとよ。
石原が使ってたのがそのGHBってクスリだ。しかも困ったことにまだ日本では合法なクスリで、
海外にメールオーダーすれば誰にでも手に入る新種のダウナーらしい」
GHBはエクスタシーと並ぶほどの媚薬だと言われているが、使用量を間違えると昏睡状態に陥ってしまう。
しかも日本ではまだメジャーではないため取締法も無く、人体にもともと存在する科学物質なのでたとえ摂取しても
検出は難しい薬物なのだ。
「で、あやかが飲まされたカクテルな、リンゴジュースとコニャック、それにヘロインとモルヒネに
マジックマッシュルームのエキスが入っていたらしい。なんかよく解らんが、
中世の魔女とかが媚薬によく使っていたカクテルだそうで、飲むと感覚が超敏感になったり、アナルの弛緩効果、
精神的興奮、勃起能力の増進なんかの効力があるらしい」
坂崎の手には警察から貰ったのか、小さなメモがある。
「まぁ、なんだ。あやかがすごい感じたって言ってたのは、このクスリのせいだったらしいぞ」
あとは自分で見てくれと言わんばかりにメモを手渡す。あやかはそのメモに一応目を通すが、興味がないのか
すぐにつっかえしてしまう。
「そういえば、他に予定してた男の子たちの事故。あれも石原が仕組んだらしい。
あやかを他の男に抱かせたくなかったんだとよ。たいした独占欲だよ。実際奴の部屋にはあやかの私生活を
撮ったビデオとかが応酬されてるしな。完全にストーカーって奴だ」
あやかはコーヒーを銀のスプーンで軽くまぜると、その形の良い口でこくり、と飲み込んだ。
「なんで僕なんかのために、そこまで・・・」
本気で全然わからない様子のあやかに、思わず坂崎が溜め息をつく。
「お前なぁ、自分の魅力ってやつを解ってないようだな。石原がクスリをやってでもお前を手に入れたいと思うほど、
お前の事が好きだったからに決まっているだろう?」
「僕を好き?」
それこそ解らない、といった様子のあやかに、坂崎は話題を変えることにした。
「それで、どうなんだ?もうAVは出ないつもりか?」
これが本日の議題である。看板男優のあやかが止めるとなると、その穴を埋めるのは結構つらいものがある。
しかし、いきなり刃物で切り付けられるという恐怖を味わったのだ。無理して引き止めるようなことは出来ない。
プロダクション側にも責任はあるのだし。
坂崎が地獄の審判を受けるような眼差しであやかを見詰めると、あやかはコーヒーをソーサーに戻した。
そしてあっけらかんと、一言。
「止めませんよ」
そしてあやかは席を立つと、薄いコートをはおる。
「もともとAVやるってことはこういう輩が出るって理解してるものだし。
・・・でも本音言うと本当に傷害沙汰になるなんて考えてなかったんです。この世界を、甘く見ていました。
でも、止める気はありませんよ。坂崎さんには恩があるし」
すると坂崎はむっとした顔であやかを見返した。
「恩なんかどうでもいいって、毎回言ってるだろ?」
「もちろん、僕に本気で好きになれる人間が出来たら、AVなんか止めろって言ってくれるような人が出来たら、
遠慮なく止めさせてもらうつもりです。それまで特にやりたいこともないし、止める理由もないんで」
あやかはAVの報酬を確認すると、無造作にポケットへしまいこんだ。
「それに、これが僕でしょう?」
綺麗なだけじゃない。汚れてしまった自分。それでも好きになってくれるなら、本気の恋だと思えるんじゃないだろうか。
あやかは小さくじゃ、と言うと、そのまま店をでた。今日は友人である霧島貴子との約束があるのだ。
兼ねてからの約束通り、貴子は幼馴染である「藤臣和輝」の写真を見せてくれるらしい。
あやかはその約束を結構楽しみにしていたのだ。
およそあやかの住んでいる世界とは全く別世界に住む彼に、憧れ以上のものを抱いているのかもしれない。
あやかは澄み切った空を見上げながら、小さく溜め息をついた。
「藤臣和輝君かぁ。会ってみたいなぁ」
ちょうどこんなすさんだ気分の時には、自分にない強さを持っている人にすがろうとしてしまう。
あやかは切られた頬を左手でなでながら、人込みをすり抜けるように歩きだした。


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