<神様なんて大嫌い>

STAGA 29 腕の中の温もり


坂崎さんと男はそのまま玄関から出ていってしまった様子だった。
俺はというと、バツが悪くて樹から視線をそらしたまま黙っている。

「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」

微妙な沈黙。
これを破るのが怖い気もするし、破りたい気もする。
そう思っていたら、ふいに樹が口を開いた。
「・・・なんで、来たんだよ」
ぶっきら棒な物言いだが、微妙な照れを含んでいる。
そこで俺はようやく樹の顔を見るようにそらしていた顔を向けた。
「樹が・・・変な男に付きまとわれてるからって、教えてもらって・・・いてもたってもいられなかった」
俺がそう言うと樹はきょろきょろと視線をさ迷わせる。
動揺、しているのか。
樹の顔をじっと見つめながら俺は覚悟を決めた。
「・・・・・もう、言うけど。・・・・・・・・・・俺は樹が好きだ。情けなくても、なりふり構わなくても、
それでもいいって思うくらい、好きになってた。はっきり拒絶されたのに未練たらたらで、悪い。
でも・・・・・樹が俺を庇ってくれて、嬉しかった。本当に嬉しかったんだ」
俺はゆっくりと樹の首元に顔を埋める。
そして素肌の背を両腕でしっかりと抱きしめた。
同情でもなんでもいい。
俺の想いをきちんと伝えられて、それで今だけは俺だけ見ててくれれば。
それだけでも、いい。

「・・・・・・・・俺、も・・・・嫌いじゃない、加納さんのこと」
「え・・・・?」
俺は自分の耳を疑った。
都合のいい幻聴とかじゃないよな?
「拒絶・・・したのは、理由があって・・・だから」
戸惑いながら言葉を口にする樹の顔を下から見上げる。
「理由って、何だ?」
俺はもう逃がさないように樹の手を絡め取ってぎゅっと握り締めた。
樹の体温はひどく高い。
それがあの男がした行為の所為だと思うと悔しさがこみ上げる。
「・・・なぁ、樹。俺はすべてを曝け出した。だからお前にもちゃんと言葉に出してもらいたい。
どんな気持ちだっていい。それが真実なら、きちんと受け止めるから」
これは俺の本心だった。
偽りじゃない樹が見たい。
虚勢を張ってる言葉じゃなくて、真実が知りたい。
俺がじっと樹の顔を見つめていると、樹は溜息をひとつついてからゆっくりと口を開いた。
「・・・・・前に、付き合ってた奴に・・・・振られたんだ。なんとなく付き合いはじめて、でも俺は
関係をずっと続けていくつもりだったのに・・・・・お前とは、もうセックスだけだって、言われて・・・」
樹の言葉を俺はじっと聞き入った。
「あんなに俺のこと好きだって言ってたくせに、いつの間にか気持ちは冷めてて・・・・・
そいつとは別れたけど、他の奴と付き合った時に今度は俺のほうが嫌になって・・・・・
相手を、傷つけた。それで別れたくないって言われて、ケンカになって・・・」
樹の指先が震えている。
多分、この話をするのは俺が初めてなんだろう。
「永遠なんて・・・・ないんだ、って。思った・・・だったら!・・・だったら、最初から
諦めてしまえば自分も相手も傷つかなくてすむって、思ってて・・・・・誰彼かまわず
セックスした後に、精液が体温を失って冷えていくのと同時に、俺の心も冷えていって・・・」
ああ、って。
俺は思った。
だからコイツはいつも他人との距離を置くようにして、自分も好きにならないように、
相手も自分を好きにならないようにって防護線を張ってたんだ。
それが俺には癪に障って、どうにかしてやりたいって思ってたんだ。
「それで、俺はいいって思ってた。・・・・・・・・・でも、加納さんの本当に笑った顔とか
見てたら、ここらへんがぎゅう、ってなって・・・・・なんか、暖かくなってた」
・・・そう言われて、思わず俺の視線が瞬きしながら樹の瞳を見てしまう。
樹は困ったような、照れたような表情でもう一度俺の肩を抱きしめた。


「・・・・・・・アンタが俺に、いつも本当の笑顔を見せてくれるなら・・・・・・
俺も、アンタのこと・・・好きでいられると思う」


触れる指先から、じんわりと相手の体温が伝わってきた。

抱きしめたときの温もりも、
抱きしめられたときの温もりも、
大差なく相手の皮膚を焦がしてゆく。
自分を抱きしめるこの腕がけして解かれることのないよう、努力しようと俺は思った。




愛してる。
お前だけを。





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