<神様なんて大嫌い>
STAGA 28 永遠なんて信じない
吃驚した。
なんで加納さんがここにいるんだろうか。
ぐるぐる頭ん中を疑問符が駆け巡る。
そんなことしてたら、いきなりあの男が加納さんに殴りかかってきたんだ。
俺は思わず加納さんの頭を抱きこむように、自由になった片手で必死に彼を抱き寄せた。
条件反射っていうのかな。
考えるより先に俺の腕が動いていた感じだ。
一ヶ月前までは確実に大嫌いだった相手なのに、自分を守る事より優先しちまった。
ああ、もう。
身体は心より俺の感情を理解してたってことかよ。
認めたくないのに。
悔しいのに。
離れるためにくっつくなら、そんな関係なら、いらないのに。
「・・・そこまでだ!」
ふいに響のいい声が玄関のほうから聞こえてきた。
俺は驚いて目を見開いたまま声の発せられたほうへ顔を向ける。
そこにいたのは心強い味方の顔だった。
「・・・・・・・・坂崎さん」
ほっとしたように加納さんが吐息を漏らす。
その仕草にはっとしたように男のほうへ視線を戻すと、男は振り下ろした手を止めて
坂崎さんがいるキッチンのほうへ顔を向けていた。
これってひょっとして、ヤバイんじゃないか?
坂崎さんのこと殴って逃亡するとか、そうじゃないにしても追い詰められてナイフとか出してきたら・・・。
「・・・・・遅かったな。思わず殴り返すところだったぜ?」
ふいに男が口を開いた。
俺と加納さんはその言葉に口をぽかんと開けてしまう。
「敦志・・・・・・お前、あやかと手を出さないって約束してたんじゃないのか?」
「あー・・・してた、してた。たった今まで忘れてたけどな」
「ほんっとにお前は・・・・・」
男は殴られた頬を片手でさすりながら坂崎さんの近くへと歩いてゆく。
・・・・・・・なんだよ、ソレ。
アンタたち全員で、俺のこと遊んでたってワケかよ?
「あやかって・・・、アンタ、あやかの手先かよ!?」
俺が怒鳴るように声を荒げると、敦志と呼ばれた男は鼻先で笑いを返してきた。
「フン・・・あやかが気にしてるからどんなヤツかと思いきや・・・なんてことない、ただの子供だったな」
「なっ・・・!ふざけんな!あやかなんて俺と同い年じゃねぇか!俺がガキならアイツも子供だね!
・・・・・・だいたい、どいつもこいつもあやか、あやかって・・・・・加納さんもあやかに頼まれたのかよ!」
俺は吐き捨てるようにそう告げる。
一番最後に言った言葉が一番ショックだった。
助けにきてくれたと思ったのに。
俺をからかうためだけにここへ来たんだとしたら・・・・・心臓がどうにかなっちまいそうだ。
「ソイツは何にも知らねぇよ。・・・・・・・だいたい、あやかにコンプレックス持ってるようなガキに
大人が何人もよってたかって悪さする価値もねぇだろ」
「ッ・・・・・・・!コ、コンプレックスなんて持ってねぇよ!」
「持ってるだろ!自分にないもの強請りであやかのことを敵視してるから
どいつもこいつもなんて発言が出てくるんだ」
俺は思わず二の句を告げられずにいた。
悔しいけどこの男が言ってることが正しいからだ。
俺はきっとずっと、俺にない何かを持ってるあやかが羨ましかったのかもしれない。
大事な恋人がいて、誰からも大切にされて、笑顔が綺麗な、アイツ。
「・・・・・お前はガキだよ。あやかになんて、一生勝てやしない。嫌いなモンを拒絶してるだけの
甘えた人間だ。何もかも、お前があやかに取って代わるなんて無・・・」
「・・・そんなことない!!」
・・・・・叫ぶような声に一瞬にして辺りがシーンとなった。
坂崎さんも、男も、黙ったままこちらを見つめている。
でも。
否定したのは俺じゃなかった。
俺の腕が首に回ったままの、加納さんだ。
加納さんは首だけ男に向けてきつく、きつく睨み上げている。
「・・・・・・樹には樹の良さがある。あやかにコンプレックス持っていたって、素直になれなくて
憎まれ口を叩いたって、比べられるもんじゃないだろ?あやかが人を傷つけないように
気を使う優しさを持っているとしたら、樹は誰かを傷つけないために自分が傷つくような
不器用な優しさを持っているってだけだ!」
言われて。
俺は思わず赤面してしまった。
こんな臭い台詞吐けるの、加納さんだけだよ、マジで。
「誰かを拒絶したり、見下すような振りをしているのだって、最初は樹が自分を守るために
やっていることだと思っていた。・・・でも、それだけじゃない。自分が相手を傷つけるのが
嫌なんじゃないかって・・・後から、気づいた」
「へぇ?だから?それで?」
「・・・・・・だから、俺は・・・そんな樹が、好きになったんだ」
後ろから見える加納さんの顔が、僅かに赤くなった気がした。
・・・・・なんだよ、マジで言ってんの?
アンタそんなこと、今まで一度だって口にしてなかったじゃん。
今更だよ。
今更、そんなこと言われたって。
「・・・・・・・・・・なら、あとは二人の問題だろ。俺の役目はこれで終わり。
・・・・・・坂崎さん、ほら、奢ってくれるんだろ。飲みに行こうぜ」
「はいはい」
男は両手を上げて肩を竦めてみせると玄関に向かって歩き出した。
文句はいろいろあったけど、引き止める気力が今の俺にはない。
坂崎さんもポケットに手を突っ込んで歩き始める。
そんで、途中で俺達を振り返った。
「・・・・・樹、お前がなんでその手を出したのか、よく考えてみるんだな」
その言葉で俺は加納さんの肩に乗っている自分の腕を見つめた。
なんで、この腕を出して加納さんを抱きしめたのか。
警告音が鳴る。
気づいてはいけないとベルが鳴る。
永遠なんてないんだ。
だから求めちゃいけないんだ。
俺は永遠なんて信じないんだ。
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