<神様なんて大嫌い>

STAGA 27 神様に拾われた日


車を脇に止めてキーを抜くと、急いで車を降りてロックをかけた。
少し迷ったが樹の住む部屋はすぐに見つけられた。
それでも、チャイムを鳴らそうと押す指に力が入らない。
顔を見た途端に拒絶されたら・・・笑ってしまうが、きっと俺は傷つくだろう。
今までの人生でそんなこと一度もなかったってのに、ホント、たらしってやつの名折れだよ。
でもしょうがない。
そこまで樹を大事にしたいって思うようになっちまったんだから。

「・・・・・・・・・・・・・・」
俺は意を決してドアの横についたインターホンを押した。
少し待ってみたが返事はない。
もう事務所のほうに行ったのかと思って携帯を取り出したけれど、
俺はふと思い立って外に取り付けられた電気メーターに視線をやってみた。
テレビで見たことがある、中に人がいるかどうか確認する目安だ。
特に今はまだ寒い時期だから暖房を使っていればまだ中にいる、ということになる。
「・・・・・・・・・・」
俺は言葉なく空気を飲み込んだ。
電気メーターはぐるぐると回転してその存在を示している。
・・・だから、もう一度だけインターフォンを鳴らしてみた。
これで出なければ踏み込む覚悟だ。
窓ガラスくらいなら割って中に入れるだろう。
「・・・樹・・・・・っ」
またしばらくの間返事を待ってみたが、樹が出てくる様子はない。
それどころか扉に耳をくっつけてみると中から小さな悲鳴みたいなものが聞こえてきた。
俺は思わず焦ってドアノブを掴んでしまう。
すると。
「・・・っ!?」
思わず声を殺して驚いた。
てっきり鍵がかかっていると思っていた扉が開いたからだ。
しかも扉が開いたせいで中の声がより一層クリアに耳に入ってきやがった。

「・・・・ッ、・・・・ァ、・・・・」
「・・・んだ、・・・振って・・・ってんのか?・・・・・・・ら、おしゃぶりしたいって言えよ・・・」

「・・・・・!!」
瞬間的に俺は頭に血が上った。
ふざけんな。
樹は俺が堕としてやりたいって思ってたんだ。
横からきたストーカーにかっさらわれるつもりなんて更々ない。
俺は扉を開けたまんま乱暴に靴を脱いで部屋の中へと入り込んだ。
狭いキッチンを抜けるとフローリングのワンルームがあって、そこに樹はいた。
手足を拘束されて裸のまま男に悪戯されている姿で。
「・・・・・・ッ!て・・・めぇ・・・・・!!」
カっとして、俺は左手で男の胸倉を掴み上げた。
多分相当な速さだったと思う。
考えるより先に手が出た感じだ。
男は俺が殴りこんでいった足音でこっちを向いていたけれど、身構えるほどの余裕はなかったらしい。
ガツ、っと。
俺の右ストレートが男の頬に決まった。

「っ・・・・!」
男は頬を殴られた拍子によろけて後ろのラックに背をぶつける。
がしゃがしゃっとそこからCDが零れ落ちた。
どうやら俺のパンチはかなり効き目があったらしくて、男はそのまま腰を落とすと頬を押さえ込んでいる。
その隙に俺は樹の右手を拘束する革紐を解きにかかった。
ぎゅっと堅く締められたそれはなかなか思うように解けてはくれない。
それでも。
俺は必死になって革紐と格闘した。

「・・・・・の、・・・さ・・・・」
ふいに樹の声が耳に入る。
樹は信じられない、といった表情で俺を見ていた。

・・・なんだよ、そんな顔すんなよ。
俺だって自分の行動が信じられないんだ。
今までの俺だったら誰がどこで誰に何されようがきっとどうでもよかった。
そんな俺に樹は気づいていたからこそ、きっと信じられないんだろうけど。

「加納さん・・・なんで・・・・ッ」
なんで、なんて。
答えられないような質問をしてこないでくれよ。
俺の用意していた言葉なんて、樹のことが好きなんだってことくらいしかないんだから。
「・・・・・っ、外れた!」
まずは右手の自由を確保したところで俺は小さく安堵する。
しかし樹は目を丸くして俺の肩の先を見つめた。
「か、加納さ・・・・ッ!」
ふいに樹は自由になったその片手で、俺の頭を抱きこんだ。
しなやかな指の感触が後頭部に触れる。
そして体制が崩れてぶれた視界の隅に殴られた男が俺に向かって拳を振り下ろしてくるのが見えた。

・・・・・なんだよ、樹、俺のこと庇うっていうのか?
お前、俺に愛想がつきたんじゃないのか?

たった数秒の間にいろいろな感情が芽生え、そして消えてゆく。
樹はそんな俺の頭を必死に守ろうと片腕にぎゅっと力を込めていた。
しばられていたせいで少し冷たい指先と、首筋から香る樹の匂い。
そしてそれに抱かれている自分への幸福感。



俺はたったこれだけのことで、

ひどく救われた気がした。





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