<神様なんて大嫌い>

STAGA 25 冷たい情事


俺が目を覚ました時にはもう、両手両足の自由はなかった。

万歳をするみたいに上げられた両手首は革の紐で固定されている。
多分コレ、犬のリードとかそんなんだと思う。
足も同じ紐で膝を開かせるようにベッドの支柱に結わかれていた。
どうにか抵抗してみようと手を引っ張ったが、革が皮膚に擦れるだけでビクともしてくれない。
「・・・・・・ッ、・・・・・・・」
俺は思わず革の擦れる痛みに眉根を寄せた。
「こんにちは、樹くん?」
ふいに低音の若い男の声が耳に入ってくる。
視線をそちらへ流せば、予想していたよりも遥かにいい男がそこに立っていた。
なんだよ、こんないい男なら引く手数多だろうに。
「・・・・・・何、アンタ」
俺は相手を牽制するような口調で告げた。
もしも普段は大人しくて突然イっちゃった行動しだす人間なら、威圧に弱いことが多い。
それは経験で知っていたし、四肢の動かないこの状態では睨みつけるくらいしか出来そうになかった。
すると男は自分が飲みかけていたらしいビールの缶を俺の前に差し出してくる。
ナンだよ、コレ。
飲めって?
「・・・そう、物分りよくていいな」
俺が訝しげな視線を送っているとなんとなくその意思を読んだらしい男が口端に笑いを潜めた。
視界に入った男は筋肉質な体躯で身長も高そうな、モテそうな容姿をしている。
何故この男が自分のことを狙ったのか俺には理解できそうにない。
「・・・・・・・・・っぅ!!」
そんなことを考えていてなかなかビールを飲まない俺に痺れを切らしたらしい
男の片手が俺の口を塞いできた。
でかい手は口どころか鼻も塞いできて、完全に息が出来ないわけじゃないけれどひどく苦しい。
「ッ!・・・・・、ぅ・・・・く・・・」
苦しげに俺がうめき声を上げると男は少し顔を近づかせてきて鋭い眼光で俺の顔を見下ろしてきた。
「・・・・・飲め」
絶対的な命令。
現状を支配しているのはこの男だ。
ぱっと見ても力では敵いそうにない相手に俺はしぶしぶ頷きを返した。
すると口を塞いでいた手はぱっと離れ、代わりにベッドに横たわった
俺の頭を少し持ち上げるように異動する。
そして口の前にビールの缶が現れた。
つん、とアルコールの匂いがして三分の一ほど残った中の液体を少しづつ飲み込んでゆく。
少しづつじゃないと喉に突っかかって咽るからだ。
中身が空になるのと同時に男は満足そうに笑いながら俺の後頭部から手を引き、缶をゴミ箱へと捨てる。
そして傍らにある見慣れたソファに腰を下ろして俺を見つめた。

・・・・・・そう、見慣れたソファのある部屋だった。
どこかに連れていかれたのかと思ったらそうではなく、男は俺の部屋に俺を連れ込んだらしい。
どうゆう目的なのかは俺が全裸なことから容易に想像はついた。
でも。

・・・・・・どういうわけか男はビールを飲ませて以来、手を出してくる様子がまったくない。
俺のビデオのファンとかなら多分きっと無理矢理強姦してくるはずだ。
痛がってる姿とか見てエクスタシー感じたりするフェチ系のビデオが多かったから。
でも男は別に俺の体に触るでもなし、テレビを見たり時折時計を見たりしている。

まぁ、俺としては幸いなわけだけど。
このままのんびり時間が経ってくれれば俺が事務所に来ないことを不審に思った
坂崎さんたちが様子を見に来てくれるだろうからな。
その時に脅されて普通のこと言わされても、付き合いの短くない坂崎さんなら異常事態に気づくだろう。
・・・・・うーん、どちらかというと気づいて欲しい。
すっぽんぽんのまんま救出されるのは恥ずかしいけど、このまんま放置されてんのもえらい恥ずかしい。
どうせなら無我夢中に犯してもらったほうが俺も時間が経つのが早く感じられるってもんだ。

「・・・・・・・・・・・・さて」
俺がまた一人で思案していると、男はおもむろに口を開いた。
「20分経ったな」
また、ヤツの口端が笑う。
どうやら男は時間が経つのを待っていたらしい。
俺はなんとなしに背筋に冷たい汗が吹き出てくるのを感じた。
まるで今の時間は執行猶予だったように男は無造作に立ち上がると俺に手を伸ばしてくる。

大きな掌が、俺の胸元を包むように触れてきた。

「・・・・・・っ、ァっ!」
瞬間、脳裏に火花が散ったような感覚を感じて俺は小さく喘いでしまった。
内股が反射的にぴくぴくと痙攣してしまっている。
「・・・・・・・・?」
理解できない。
いや、理解できているのかもしれない。

脳裏に放たれた火花の名前は、快感。

信じられないことに、俺の体は男に触れられただけで感じてしまったんだ。
そんな俺の様子を見て男はますます笑みを深める。
「っ・・・・・・・!」
なんとなく事情が飲み込めた俺は思わず眉間に皺が寄ってしまった。
一服盛られたんだ。
ここまでくればその結論に達することは難しいことじゃない。
でなけりゃ知らない男に触れられてその気もないのに感じるなんてありえない。


・・・・・・・・・・・・・・ふと。

あの人の顔が頭に浮かんだ。

金じゃないセックスを教えてやるって言った、あの人。





「・・・・・・・・・・・・・・あっ!」
俺がぼんやりしていると男の手は脇腹を通って下半身の中心にたどり着いた。
その少しざらついた皮膚の感触に俺は思わず身を捩ってしまう。
「さすが合法ドラッグの売れ行きナンバーワン。効き目は抜群だな」
低い声でそう囁かれて俺は目を見開いた。
こういう仕事をしていればだいたい使われた薬の種類が想像出来る。
俺は唇だけを動かしてそのドラッグの名を告げた。
「・・・そう、ラブドロップス。正解だ。ご褒美やらないとな?」
男が喉奥で笑いを漏らすとベッドの片隅に置いてあったローションとローターを取り出す。
どうにも調教は避けられないらしい。
SMのビデオに出てるんだから慣れていないわけじゃないけれど今回はきつそうだ。
さっき男が言ったラブドロップス。
即効性のある液体の興奮剤で、多めに服用すれば30分イキっぱなしってのも可能らしい。
俺が飲んだビールにどれくらいそれが入っていたのかわからないけれど・・・。
自分の体は自分が一番知っている。
火照った肌がシーツに擦れるだけで甘い痺れが全身を覆い尽くしてきた。
ヤバイくらいの快感だ。
そんなに敏感になるなんて、ちょっとやそっとの量じゃないかもしれない。
まぁ、俺はドラッグなんてやったことないから、効き易くてそうなってるのかもしんないけど。

「さぁ、善がらせてやるから、可愛く腰を振ってみせろよ?」

そう告げた男の指が俺の体に触れるのに俺はいちいち反応を見せた。
悔しいけど、全身が甘く熟れて抵抗するほどの力が入らない。




なんだよ、もう。
こんな状況で、助けてもらいたいのがあの人だなんて。
俺から拒絶したのに。
助けてもらいたいだなんて。









・・・滑稽だ。





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