<神様なんて大嫌い>
STAGA 24 知らされた事実
樹に三行半たたきつけられてからもう、三日。
俺はぼんやりしたまま煙草を口に挟んだ。
相手から拒絶されたんだから、もうこんな胸に燻ってるもんは不要な不燃物で。
だから切捨てなきゃいけないもんなら、早くに捨てたほうがいってもんで。
・・・そう思って、何人かに誘いをかけた。
それなのにどうしてか俺のムスコは役に立ってくれない。
今までの人生で役に立たなかったことなんて一度もない優れものだったってのに。
いや、誰であれ勃たせなきゃAV男優なんてやってられないけどな。
だから現在の俺はAV男優としても失格ってやつで、なんとなく事務所に顔を出しづらくなっている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
遊びの相手を前にして、叩きつけられる真実。
今まで誰としても同じだと思っていたセックス。
高慢な鼻っつらを折ってやりたくて金じゃないセックスを教えてやるなんて樹に言ったけれど。
俺のほうが樹じゃないと反応しなくなってたなんて、本末転倒だ。
・・・・・だけどしょうがない。
他のヤツをベッドに押し倒しても、夜景の中で見たアイツの顔がちらついて離れないんだ。
口付けた後に見せたアイツの寂しそうな顔が、今も脳裏に残っている。
アイツの目を俺だけに向けさせたい。
そんな気持ちがただ快楽を追求するために行うセックスにまで関わってくるだなんて。
俺は知りもしなかったんだ。
樹と関わる、ほんの少し前の自分には。
・・・・・だからってそんな事実に気づいたのが樹に振られた後だなんて、滑稽すぎて笑えもしない。
ああ、本当に神様ってヤツは、意地が悪くて最悪だ。
人間が気持ちひとつに翻弄されてあがいている様を見ているだけなんて。
時間さえ戻れば、本気でアイツのことを抱きしめて離さずに可愛がってやるのに。
もう、すべてが終わったことになってしまうなんて。
・・・・・だから俺は、神様なんてヤツが大嫌いなんだ。
トルルルル・・・・・・・。
ふいに自宅の電話が鳴り響いた。
連絡のほとんどは携帯で取り合っている俺としては、心当たりのない電話に目を見開いてしまう。
ナンバーディスプレイのそれを見ると、かけてきた相手はどうやら坂崎さんらしい。
事務所備え付けの電話番号が表示されている。
「・・・・・・・・もしもし」
ひとつの溜息の後、俺は電話の受話器をとった。
いつまでも逃げていてもしょうがないし、無理矢理にでも犯らなきゃならない状態にしてしまえば、
この役に立たない俺のムスコも観念するかもしれない。
『もしもし、俊生か?』
「ああ、坂崎さん・・・・・」
俺がそう答えると同時に坂崎さんは声を荒げた。
『お前、今から出てこれるか?・・・いや、出て来い!』
なかなかの剣幕に俺はちょっとだけ受話器を耳から離してみる。
なんだってんだ?
坂崎さんとの付き合いはそう短いものではないけれど、声を張り上げるってのはそうそう遭遇したことがない。
「まぁ、別にやることないからいいですけど・・・・」
俺は火のついていない煙草を歯できゅっと噛んだ。
樹に振られてから試した数人以外、ベッドを共にする相手もいない俺はのんびり仕事をしていて暇だ。
この仕事も手に負えないほど詰めているわけじゃないから今月分は粗方かたがついてしまった。
だからまぁ、暇なんだけどさ。
「何かあったんですか?」
『何かあるかもしれないんだ。・・・・・樹が変な男に付きまとわれてる。滅多なことにならないように
保護したいんだが・・・こっちに来るって言ってたくせに一向に来る気配がない。しかも
携帯電話まで繋がらなくなっててな?』
「なっ・・・・・」
俺は一瞬にして頭に血が上る感触を覚えた。
「何してるんですか、坂崎さん!それならすぐに樹んちに行って確認しないと!」
『そうなんだが、もしも無事でこっちに向かってる最中なら入れ違いになっちまう。
だから俊生、悪いんだがお前・・・アイツの家まで行って様子を伺ってくれねぇか?』
坂崎さんにそういわれて俺はぴたっと固まってしまった。
樹のことはすごく心配だ。
でも俺は樹に拒絶されている。
そんな俺が様子を見に行って嫌な顔をされたら、さすがに堪える。
「それ・・・は・・・・・」
俺が言いあぐねていると坂崎さんは痺れを切らしたように声を大きくした。
『下手なセックスでもされてアイツの腹でも裂けたらどうする!命の保障もないんだぞ!』
「ッ・・・・・・・・!」
俺は再び絶句してしまう。
そういう意味で変な男につきまとわれているんだとしたら、確かに命の保障はない。
過度のSM好きや嗜虐趣味を持つ人間は少なくないはずだ。
だとしたら力ずくで犯すだけでは飽き足らずに、もっと樹を苦しめようと残虐行為に及ぶかもしれない。
樹が苦しむ姿を見たくないという衝動が俺の中で抑え切れないほどに膨張してきた。
「わ、わかりました・・・樹の部屋って俺んちから車で高速乗って3、40分もあればつきますよね」
『ああ。地図はFAXで今送る。焦って事故起こすんじゃねぇぞ』
「はい。じゃあ、また後で」
俺は短く答えて電話を切ると地図が送られてくるのをひたすら待った。
たった数分のことが妙に長くもどかしく感じられる。
早く樹の顔が見たい。
もう二度と笑った顔が見れなくても、アイツの顔が見たい。
一度は泣かせてやりたいと思って近づいた。
でも俺以外の誰かがアイツを泣き顔にさせるのは我慢できなかった。
好きだ、好きじゃないなんて押し問答、もうどうでもいい。
下手なプライドなら谷底にでも捨ててやる。
樹が心から笑えるようになるんなら、それが俺のせいじゃなくたっていい。
無償の愛なんて笑わせやがる。
でもそれが真実だ。
俺はお前が本当に笑えるなら、もうそれだけで十分だ。
俺は流れてきた地図を手に取ると急いで車のキーを握った。
なぁ、神様。
もうアイツから何も奪わないでくれ。
俺が代わりに全部やるから。
全部、代わりに捧げるからさ。
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