<神様なんて大嫌い>

STAGA 23 憂鬱な電話


加納さんと縁を切った日から三日たった午後、俺は坂崎さんから電話を受けた。
今は全部の事柄がうっとおしくってたまらない。
だから無視してやろうと思ってたのに、俺の手はちゃんと携帯を握ってた。

・・・わかってる。
加納さんとの唯一のつながりを消したくないんだ。

「もしもし・・・・」
俺が電話に出ると、坂崎さんは小さな吐息を吐き出した。
どうもほっとしたような息遣いだったのは俺の気のせいか?
『樹か。お前今、どこにいる?』
「どこって・・・・・家だけど」
『あー・・・・』
それだけ言うと坂崎さんは黙ってしまった。
電話の先で会話しているようなぼそぼそした声が聞こえてるから、誰かと話をしてるんだろうけど。
一体、なんだってんだ?
この間の撮影をブッチした件を怒りに電話かけてきたんじゃねぇの?

俺がそう考えあぐねていると、ふいに坂崎さんが真剣な声でこう告げた。
『お前、今すぐ事務所これるか?出来るだけ早いほうがいい』
「・・・はぁ?ビデオに出ろってこと?悪いけど、俺今そういう気分じゃ・・・」
『いいから!・・・・・お前の家に今、危ないヤツが向かってるんだよ』
俺は絶句した。
危ないヤツって、何?
もしかしてあやかが以前殺されかけたみたいな、強烈なファンとかいうヤツ?
確かに俺はSMとか調教とか、そういう系のビデオばっかり出演してるから、
ファンだっていってくる男はだいたいそっち系が好きなヤツが多い。
だからたまに俺のビデオ見てる男が縛らせてくれ、とか言ってくることがある。
かといって今まで一度だってストーカー事件だとかってことに発展したことはなかった。
それは俺にそこまでの魅力がないってことかって、ムっとしてた時もあったけれど・・・。

「危ないって・・・・」
俺は二の句が告げないままそこで言葉を止めた。
どう表現していいのかわからない。
いや、なんか、ちょっとパニくってきた。
こんなこと初めてだ。
なれなれしい男も昔のしつこい男も、適当にあしらってきた俺だってのに。
知らない男が押しかけてくるって事実が、こんなじわじわ恐怖をもたらすものだなんて知りたくもなかった。
『とにかくソイツ、ナイフとか持ってるらしいから一人で家にいたら危険だ。襲われるならまだしも、
刺されたりしたら事だからな。急いで事務所に来い。俺も青木も待機してるから』
「・・・は、はい・・・・・」
答えてから電話を切る。

なんだよ、今年って俺、厄年?
加納さんの一件で落ち込んでるところに切れ野郎騒ぎかよ。
「・・・・・・・・・・・・・」
とりあえず俺は出かける準備をした。
話も半分しか聞いていないし、まずは事務所に移動しよう。
それからだ、それから。


俺は気持ちを落ち着かせながら玄関の扉に手をかけた。
ポケットには部屋のキーがある。
それを外側から確認するようにぽん、と叩くと扉を押し開いて顔だけ部屋から出した。
右、左と。
誰もいないことを確認してから外へ出る。
どうやらまだ、その危ないヤツってのはここには来ていないらしい。
俺はさっき確認したポケットの中の鍵を取り出すために、一度扉を閉めてから顔を下へと下げた。
その瞬間。
扉に顔を向けて下を向いた俺は視界が狭くなっていた。
だから足音を潜めながら非常階段を上ってくる男の姿に気づくことなく後ろから口をふさがれた。
「っ・・・・・・・!?」
どきんって。
心臓が破裂するみたいに大きく動いて、どくどくと早く脈打ち始める。
慌てて口を塞ぐ男の手に両手をかけて引き離そうとしたけれど、無駄だった。
やけに筋肉質にいい身体のその男の拳が俺の腹へと見事に叩き込まれたからだ。



痛ぇ。
口を押さえられてるから悲鳴すら出てこねぇ。
こんなことならいっそ、部屋から出なきゃよかった。



そう思いながら俺は、意識を手放してしまった。





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