<神様なんて大嫌い>

STAGA 18 暴走


マンションの、あえてエレベータを使わずに階段を降りていく。
腹が立って腹が立って、どうしようもなく気持ちがこんがらがるから少し頭を冷やそうって。
普段の俺ならもっと簡単に受け流せるはずなのに。
なんであの人相手だと俺の感情は勝手に暴走しちまうんだろう。
怒るなんて一番無駄なエネルギーの使い方だってのに。


「・・・・・・・・・・」
俺は階段を降りきったところで一息ついた。
右に行くか、左に行くか、迷っているからだ。
別にどっちだっていいんだけど。
右に行ったら駅につくだけで、左に行ったら自分の働く店の方向だってだけで。
本当に、どうでもいいはずなのに。
なんで右と左を選ぶだけの選択能力も無くなっちまったんだろう。
「・・・・・・・・・・・」
俺は唇を噛み締めながら頭ん中をぐるぐる回る男の顔に眉根を寄せた。
アンタなんか金づるの一人で、偽善者ぶってるから余計に腹が立つだけの、ただの、知り合い。
次に会ったらまた笑顔で騙して飯でも奢ってもらうだけの、存在。
それだけ。
それだけ。
それだけだから。

「・・・・樹!」
ふいに自分の名前を呼ばれて俺はびくりと肩を震わせた。
聞き覚えのある声に顔を振り向かせるのを躊躇う。
なんだよ。
なんでアンタ追いかけてくるんだよ。
アンタの柄じゃないだろ?
来る者拒まずで、去るもの追わないんだろ?
なのになんで今、俺の名前を呼ぶんだよ。
「・・・・・・・・・・」
俺は思わず走り出した。
今まで迷ってたはずの道はもう、右でも左でもどっちでもよかった。
ただこの場から逃げ出したかった。

でないとアンタに飲み込まれちまう。
精神がすべて飲み込まれていっちまう。

「樹!・・・・待てって・・・!」
でも俺は簡単に加納さんに捕まえられてしまった。
当たり前だ、足のリーチが違う。
年齢なんかきっと俺のほうが若いってのに、なんだよ。
「・・・・何。俺、アンタに用なんてないんだけど」
出来るだけ感情を震わせることなく、低音で呟く。
腕を掴んでる加納さんの顔なんか見てないけど、
きっと眉根を寄せて一瞬だけ面倒そうな顔をしてるんだろうな。
そう俺が思った瞬間、俺は否応ナシに加納さんの腕の中に抱きしめられてしまった。
「っ・・・・・・・・・!」
力強い抱擁に、俺は思わず喉がつっかえて声が出てこなかった。




何しやがるんだ、とか。

背中が痛い、とか。





言いたいことなんて山ほどあって。
ああ、その前にこの腕を振り解いて逃げなくちゃな、とか。
もうアンタの顔なんて見たくないって言わないと、とか。
頭ん中をぐるぐる言葉だけが巡ってる。




でもそんなことより、今ここに誰も来ないようにって。
・・・気づいたら祈ってた。





なぁ神様、このムジュンって、・・・・・・何?





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