<神様なんて大嫌い>
STAGA 16 汚染
俺は黙ったまま加納さんから渡された台本に目を通した。
つーかさ、この状況で何を話せばいいっての?
昨日はどうもー・・・って、どこの近所のおばさん連中だよ。
無理。
どう考えても普通に話せる確率なさげ。
だから俺は黙ったまんま台本に目を通し続ける。
あー、もう早く撮りが始まってくれればいいのに。
体だったらきっと、口より饒舌になれるはずだから。
「あー・・・樹」
ふいに加納さんが口を開いた。
でも言いにくそうに口ごもったまま俺の顔を見つめてる。
だから先を促すためにも俺は少しだけ首を傾けて加納さんを見返した。
「・・・何?」
「・・・・あー、いや、いい。・・・やっぱり」
そう言って苦笑を浮かべると、加納さんは再び台本に目を落としてしまう。
・・・・・なんだかな。
どうもさ、こういう雰囲気になるのが嫌だったんだよね。
お互い遊びなら後腐れねぇのに、本気だとか恋だとか愛だとか付け加えるからおかしくなるんだよ。
もっとドライに生きてさ、気持ちのいいことだけ感じられてたらいいのにな?
だいたいさ、俺達ってAV男優なんだぜ?
金貰ってセックスしてナンボの世界にいるのに、こんな展開になるってことを
予測してなかったのがおかしいんだよ。
「・・・・・・・」
俺は無言のまま台本で顔を隠しながら加納さんの顔を見た。
知ってか知らずが加納さんの眉間には皺が寄っている。
そりゃあんだけの啖呵切った後に金もらって俺とセックスするんじゃバツ悪いよな。
つーか、啖呵切られた俺のほうもバツ悪いっての。
・・・だって、だってさ。
アンタが相手だってわかった瞬間、柄にもなく俺、緊張したんだぜ?
アンタとの初めてのセックスに一瞬心臓がバクバク言いやがったんだぜ?
そんな風になるなんて初めてだったから、俺はどうしたらいいのかわからなくって
事務所に入るなり顔を抑えたまんまになっちまったんだ。
自分で言うのもなんだけど、どんなテンションだよ、俺。
「・・・・樹」
ふいにまた、加納さんが俺を呼んだ。
今度こそは何か言うのかと顔を上げて視線を交わす。
「あのな・・・今回、俺・・・降りようか?」
瞬間、俺の頭にかーって血が上った。
なんだそりゃ!
言うに事欠いて、降りようか、だって?
その言葉って、俺に気を使っているようでその実自分が逃げるための手段だろ!?
本当にムカツク。
俺のことを気遣うような振りをして。
でも俺とはヤりたくないって意思表示。
だいたいさ、アンタ昨日から俺とセックスすんのを避けているようにしか見えないんだよな。
あー、そう。
そんなに俺がイヤなワケ?
俺とセックスすんのがイヤなワケ?
「・・・・・あのさ、俺とセックスしたくなかったらそうはっきり言えよ」
俺は思い切り不機嫌な声と表情でそう言い返してやった。
そうしたら加納さんは驚いたような表情になって・・・だから、アンタ嘘吐きだってんだよ。
もういいよ、わかったよ。
別にアンタなんかいらない。
俺の人生の端っこにも居場所なんか作ってやんない。
「生憎だけど、俺だってアンタなんか願い下げだね。愛とか恋とかうわ言ばっかりで
セックスひとつも出来ないようなインポ、誰が好きになるかよ」
そんで俺は手に持ってた台本を思い切りテーブルに叩き付けながら立ち上がった。
加納さんは眉間に皺寄せながら俺のことを見ていたけど、反論ひとつしてこない。
だから俺も何も言わずに、そのまま事務所から出ていったんだ。
別にアンタなんかいらない。
俺の人生の端っこにも居場所なんか作ってやんない。
なんて。
嘘吐きな俺。
もうとっくに、アンタのことしか考えられない場所が胸ん中に存在しちゃってるのに。
アンタに拒絶されたのがそんなにショックだったのか、なんて。
バカみたいに唇が微笑む。
別に笑いたくなんかないのに。
なぁ・・・これってアンタの愛想笑いが移ったのか?
それとも、嘘吐きなところが伝染しちまった?
アンタは俺のこと嫌がってるってのに。
俺ばっかり、アンタに蝕まれていってる。
もう、ほんとにどうしようもないよ、俺。
アンタの愛想笑いが、いつまでたっても記憶から消えやしねぇや。
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