<神様なんて大嫌い>

STAGA 15 偶然で必然で運命的で


結局あの後、俺達は何もせず帰った。
帰りのタクシーでも手は繋いだままだったから進展はあったんだろうけど。
樹は新橋まででいいって言ってそのまま電車で帰って行った。
俺はなんとなくそれ以上雰囲気を壊したくなくて、乗らなくてもいいのに品川までタクシーに乗った。
家に帰ったら何度かの着信とメールが数件入っていて、その中の一つに事務所からの
呼び出しがあったから今、こうして来ている。
忙しそうにしている坂崎さんが俺を見るなりソファで待ってろって言ったから実際はかなり暇だ。
新しいAVの撮りの話だってのはわかってるけど、どうもいつものテンションじゃない。
いつもなら割とだらだらと契約してその後談笑して後日撮りって感じなのに、今日はなんだか慌しい。
「悪いな、俊生。今週発売予定だったテープに差し止め食らって、変わり入れないとヤバイんだ」
「ああ、いいッスよ。時間空いてたし」
俺はやっぱりな、と納得しながら笑顔で頷いた。
後から合流した青木さんの話だとビデオ屋に下ろしてる在庫もなくて、どうしても今週中に
新作を撮って販売にこじつけたいらしい。
いつもなら二、三本撮り溜めしておくんだけど、先々週のあやかの撮りが都合悪くなって
撮れなくなっちまったそうだ。
慌てて次の企画の収集かけたらナンバー2の竜哉も補習でNGだったらしい。
だから高校生とか大学生とか使うと痛い目見るんだよ。
俺はそう思いながらも坂崎さんたちには大変ですね、と笑顔を向けた。
「これが今回の台本だ。ざっと目ぇ通しておいてくれ」
坂崎さんは俺に台本を二冊手渡すと隣の臨時撮影部屋へ出ていってしまった。
二冊ってことは、もう一人相手が来てそいつに俺から渡せってことだよな?
と、青木さんを振り返ったらこれまた隣の部屋へ行ってしまっていて答えを貰うことは出来なかった。
仕方なくのんびりと台本に目を通し始める。
まぁAVの台本なんてあってないようなもんなんだけどな。
「・・・・・・・・肉奴隷のススメ、アナルにバイブが入ったまんま!・・・・ときたか」
俺は誰もいない部屋で思い切り独り言を言ってしまった。
今回はSMものらしい。
とはいっても強烈なのじゃなくて、快感重視のプチSMってやつだ。
快楽に調教されていく気の強いオスってところか。

・・・・・・・・・・今、ものすっごい誰かのことを思い出したな。
いかん、昨日からずっとアイツのことが頭から離れない。
あまりに考えすぎてヤってる最中に萎えたらどうしてくれるんだ。

俺がそんな風に台本をぺらぺらと捲っているとドアが開いて誰かが入ってきた。
坂崎さんか青木さんか今日の相手か。
三択だから簡単だと思っていたのに、入ってきたのは樹だった。
「あれ、樹。どうしたんだ?二日続けて暇つぶしなんて珍しいな」
そう声をかけた俺に樹は不機嫌な顔になって溜息をついた。
だー、かー、らー、なんでお前は俺の顔を以下略!
「加納さんこそ・・・今、事務所忙しいらしいから暇つぶしの相手もしてくれないんじゃない?」
「いや、俺は暇つぶしじゃない。仕事だ」
そう告げた瞬間の樹の顔はちょっと見物だった。
表情が凍り付いて、すぐに焦ったように瞬きをして、口元を押さえながら僅かに頬を赤らめた。
そこまでされれば俺だってバカじゃない。
「・・・・・・樹も仕事、っぽいな・・・」
俺は思わず苦笑して台本を差し出した。
すると樹は口元を押さえたままもう片方の手で台本を受け取って真向かいのソファへと腰を下ろす。
それからの俺達の気まずさといったら、これ以上ないくらいだった。


金じゃないセックスの仕方を教えてやるって言った矢先に、コレかよ。
俺は思わず運命の神様ってやつを呪ったね。
樹とはこれが初めてのセックスだってのに、よりにもよって調教モノだし。


なぁ、もしかしてこれって俺への試練ってやつ?
おいおい、神様。



そりゃないんじゃないの?





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