<神様なんて大嫌い>
STAGA 1 嘘吐き
体温を失った精液の冷たさを知っている。
吐き出したものはもう誰のものでもなくなっていて、体温はいっきに蒸発していってしまう。
体内にある時はあれほど熱く煮え滾っているというのに外に出してしまえばそれは命の欠片もなく。
無数に泳ぐ精子だってすぐに死滅してゆくものだ。
だから俺は騙されない。
どんなに抱き合って甘い言葉を囁いたって、一度手放してしまったものは二度と元には戻らない。
精液がどんどんと冷めてゆくように、恋という熱に侵されていた身体が冷え切ってゆく。
後はもう、口先だけの大人の駆け引き。
「なぁ、俺の単価そろそろ上げない?」
俺はこのAV製作会社でもかなりな権力を持っている坂崎って男に向かって言った。
しかし坂崎は肩を竦めてみせただけで商談に応じる気配も見せない。
すると俺の座るソファの後ろからカメラマンの青木というオカマが声をかけてきた。
「ばっかねぇ。あやかちゃんじゃあるまいし、そうそう値上げには乗らないわよ」
「・・・・・・・・・」
俺はここぞとばかりに不機嫌な面を青木に向けてやった。
あやか、って奴は俺と同じAV事務所に勤めるホモAV男優だ。
この事務所が販売しているAVの中でもダントツの人気を誇っている。
それがまた俺の鼻につくんだ。
「あやか、あやかって・・・アイツと俺のどこが違うんだよ」
吐き捨てるように言った俺に青木と坂崎が視線を合わせた。
「どこが違うって・・・色気か?あやかはこう、性の本能に直接揺さぶりをかけるような色気があるんだよ」
「そうそう、アンタはどっちかっていうと勝気なタイプでしょ?だからSM系が多いんだし」
・・・だから、俺はその色気ってのがアイツと俺じゃそんなに変わらないんじゃないかって言ってるんだ。
さらに不機嫌になった俺の顔を見て二人は再び肩を竦めてみせる。
「そうかなぁ。俺はどちらかといえば樹のほうが好きだけどな」
そこへふと、長身の男が参加してきた。
AV男優の分け目で言えば、男性役の加納俊生(かのう としお)だ。
俺はやや冷たい視線を奴に向けてやった。
「・・・そりゃどうも」
奴がいう樹、という男が俺のことだからだ。
褒められて悪い気はしない。
「本気なんだぜ?いつも口説いているのに樹は鼻にもかけてくれないんだからな」
そう言いながら苦笑して、当然のように俺の隣を陣取った。
「口説いてる相手が俺だけだっていうなら、靡いてやってもいいけどな」
「お前だけだって」
奴はやけに涼やかな目元でこっちを見てきた。
「・・・・・・・・・・・・」
「本当、お前だけだって」
「はいはい、信じてるって」
・・・嘘吐き。
アンタもどうせ、あやかがこの場にいればあやかの味方につくくせに。
嘘吐き。
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