Original Boys Love Novel. かずあやシリーズ
快感物質(β−エンドルフィン)
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その日、あやかは恋人である男子高校生、藤臣和輝と駅前で待ち合わせをしていた。 アルバイトでAV男優をやっている小田切あやかの住むマンションに二人で帰るためだ。 明日は休日。 二人きりの甘い週末を過ごすことが出来る。 「・・・・・・・・・」 あやかは薄手のジャケットに短いマフラーを巻いて駅ビル入り口の柱に背を凭れさせた。 暦の上では春という三月末は雪降る二月に比べるととても温かい。 おかげで外で待たされていてもあまり苦にはならないし、待っている間も楽しむことができた。 あやかはこうして和輝を待っている時間がとても好きだった。 一人でいる時間がしばらくつづいたから、こうして誰かを待てること自体が幸せだと思えるのだ。 だからあやかはいつも待ち合わせの時間よりも少しだけ早めに到着するようにしている。 その後にやって来る和輝が、自分が遅刻しているわけでもないのにあやかを待たせたと苦笑する姿も好きだった。 「・・・・・・・・・・・・」 あやかは腕にはめられた細身の時計へと視線を落とした。 針はそろそろ待ち合わせをした時刻を指そうとしている。 「・・・あやか、お待たせ」 そこへ狙ったようなタイミングで制服姿の和輝が現れた。 和輝は最近、とても忙しい。 数週間前は在校生代表として送辞を読むために毎日居残りをして、今は新入生の入学式の準備を 手伝うとかでやはりいつも遅い時間に帰宅していた。 だからあやかも週末以外は出来るだけ会うのを控えている。 とはいっても、その分週末はたっぷりと恋人を独り占めすることにしていた。 「待ってないよ。・・・・・それじゃ、コンビニ寄って飲物とか買って・・・帰ろうか」 提案した事項を了承してもらおうとあやかが顔を斜め上に向けて和輝の返事を伺う。 すると和輝は口端を緩く笑ませたまま頷きをひとつ返してきた。 ・・・・・和輝もまた、こんな瞬間がたまらなく好きなのである。 自分を待っている間、その間はあやかは自分のことだけを考えてくれているだろう。 だからこそ迷うことなく予定を口にし、綺麗な笑顔で和輝を部屋へと誘ってくれるのだ。 誰かを独占したいと思ったことのなかった和輝の、唯一の独占欲。 あやかの瞳を自分にだけ向けさせておきたいという欲求。 それぞれが互いにほのかな思いを胸に秘めたまま二人は歩き出した。 大通りの角をひとつ曲がったところにコンビニはある。 二人にとっては御用達のコンビニなのだが、いつも男二人で行って買い物をするのは無駄な興味を 示されてしまうため、気を使って一人が買い物をして一人が外で待つ、ということも少なくない。 「・・・・あっ、和輝。今日は僕が買ってくるよ」 あやかは少しだけ寂しそうに和輝の傍から一歩はなれて告げた。 こんな気苦労はあやかが和輝と同じ年ならばしなくても済んだことだろう。 同じ制服を着て買い物をしてもクラスメートや部活の仲間程度にしか思われないからだ。 けれど実際はあやかは大学生で、制服を着ることはまずない。 悲しいけれどあやかはこんなとき無性に寂しさを感じてしまう。 「あぁ・・・・」 和輝もやはり寂しそうに視線を落とすと、歩く足を止めてコンビニの手前で立ち止まった。 「・・・・だから、ほんとマジ美味いんだって」 そこへふいに女性の声が飛び込んでくる。 思わず無意識に視線を送ると中学生くらいの男女が手を繋ぎながら歩道を歩いてきていた。 そして微妙な合間のあいた和輝とあやかの間を会話しながらすり抜けてゆく。 「だから買って帰るっつってんじゃん」 男が大声で笑いながらコンビニの自動ドアの前へと立った。 するりと開いた扉の向こうでは店員がいらっしゃいませ、と告げる声が響く。 「・・・・・・・・・・・」 あやかは片手でマフラーの裾を握りながらその二人の後姿を見送った。 本当なら自分たちも恋人同士で、同じように手を繋いで二人で買い物したいのに。 男同士だというだけで世間はそれすらも許してはくれない。 悔しいが、それが現実というものだ。 「・・・・・・・あやか」 あやかが思わず俯いてしまった瞬間、和輝の声が耳に甘く響いてきた。 はっとしたように顔を上げると和輝の双眸がすぐ近くに現れる。 「えっ・・・」 和輝はマフラーの裾を握り締めるあやかの手を取るとコンビニに向かって歩き出した。 「かっ、和輝・・・・っ?」 思わず動揺して名前を呼ぶが和輝は行動を止める気はないらしくあやかの腕を引っ張って歩いている。 それにつられてあやかの足も歩き出した。 目の前のコンビニの光が鮮やかに照らし二人の影を濃くしてゆく。 和輝は、あやかが何を望んでいるのか理解してくれていた。 そして何よりも普通であることを望んでいるというのに、あやかの気持ちをくんで行動してくれる。 触れた指先は力強くあやかの手を握りこんでいて少し痛いくらいだが、 あやかは胸のあたりがじん、と熱く火照るのを感じた。 「・・・・・・・・・・」 そしてゆっくりと、あやかも和輝の手を握り返す。 ありがとう、という気持ちと。 好きだよ、という気持ちと。 叫び出したいくらい熱い感情が胸の中を全て支配してゆく。 どうして和輝はこう、自分のしてもらいたいことをしてくれるのだろうか。 あやかは不思議に思いながらも胸の動悸を隠せずにいた。 きっと掌を伝わって和輝にもこの早い鼓動は伝わっているだろう。 一緒にいられるだけでも幸せなのに、どれほどの喜びを和輝はくれるというのだろうか。 あやかにとって、和輝はまるで快感物質のようだ。 与えられれば与えられるほどそれに溺れて離れられなくなってしまう。 「・・・・・・・・・」 二人は肩を並べてコンビニの自動扉を開いた。 静かに左右へガラスの扉が移動してゆくと、あやかと和輝は手を繋いだままで店内へと入ってゆく。 中では店員がさっきのカップルと同じように、いらっしゃいませ、と告げた。 |
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