Original Boys Love Novel 08
KISS TO KISS
LEVEL 08 パッション・ブルーに溺れて
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逃れられない苦しみも 愛しているから傷つけ合う優しさも すべて君のもの 僕は君のものだから 和輝は、校舎の屋上でグランドを眺めていた。 いい加減、あんなことをしてしまったからにはあやかが許してくれるはずもないし、 あまつさえ自分からお別れを宣言してきてしまったのだ。 もう、終わりだ。 そう思うと気持ちが沈んで授業どころではない。やってしまった事には責任を持つつもりだし、 今更言ってしまった言葉を取り消す事など出来ない事も、分かっている。 それでも、せっかく人生を投げてもいいとさえ思った相手に嫌われたかと思うと、ちょっぴり切ないお年頃なのだ。 和輝は大きな溜め息をついた。 溜め息をつくという行動も、あやかと会ってからぐんと増えたように思える。 初めて恋を知って、初めて振られて、初めて、セックスした相手。 この胸の焼けるような想いは、すべて彼のためにあるのだ。 好きでたまらないという想いがあるなんて、今まで知らなかった。欲しい気持ちと独占欲も、初めて知った。 世界中で彼だけが自分の世界を支配している。 それなのに。 「はぁ・・・、俺って、本当に馬鹿だよなぁ」 つぶやきながら見上げた空は、清々しく澄んでいる。 いっそ出会わなければ良かったのかもしれない。お互い傷つかないでいられたのかもしれない。 けれど。 二人は知り合い、好きになってしまった。 ならばいっそこの気持ちをつらぬきたい。 でも。 あやかの嫌がる事はしたくないし、自分のせいで泣き顔を見せたりしないでほしい。 彼を幸せにしたいという気持ちは本物だから。 和輝は手すりから体を離すと、そのまま座りこんだ。 「人を好きになるのって、難しいんだな・・・」 閉じたまぶたに、あやかの顔が横切った。 「誰が好きだって?」 いきなり話し掛けられ、和輝はびっくりして上を見上げる。視線の先には級友の姿がある。 「・・・なんだ、高野と葛篭貫か。びっくりさせるなよ」 はぁ、と大きな息をつく和輝の両隣に座ると、二人は煙草を取り出す。 知ってはいると思うが、20歳未満の喫煙は禁じられている。 和輝と彼等は中等部からの付き合いで、よくつるんで遊びに行ったりしていた。 気の合う仲間で、和輝は彼らの事をとても信頼している。 「なんかあったのか?」 スポーツ刈りでたれ目つり眉の、和輝と同じくらい背が高い高野雅史が告げる。 「俺らでいいんなら、話してみろよ」 彼の言葉を受けて、脱色したさらさらの茶髪に凛とした面持ちの葛篭貫志郎が言った。 和輝は一瞬迷ったが、無二の親友である彼等になら相談してもいいかと思いなおした。 「・・・タバコ、くれよ」 高野に手を差し出す。 「あれ?お前吸ってたっけ?」 「ん、初めて」 そしてせっつくように手まねきをする。 「・・・ホイ」 高野は箱から一本だけ煙草を出すと、和輝に差し出した。すると和輝はその銘柄を見て眉をよせる。 「・・・エコー?何だよ、それ。知らねぇぞ?」 オレンジの箱がやけに目につく。 高野はせっかくあげた煙草にけちをつけられたせいか、少々むっとした顔で葛篭貫を指差した。 「何言ってんだよ。葛篭貫のほうがよっぽど古いの吸ってるぜ?」 「どんなの?」 和輝と高野に視線を送られ、葛篭貫は緑色した箱を取り出す。 「わかば」 言って、にっと笑った。 相変わらずな親友のやりとりに、和輝は少しだけ心が安らいだ気がした。 「・・・どっちでもいいか」 この二人にマイルドセブンだとかメジャーな煙草を求めるほうが馬鹿だと悟った和輝が、 高野のライターを借りてエコーに火をつける。 そしてふーっと白い煙を出すと、空を見上げた。 「あー、初めてでも吸えるもんだな。煙草って」 大好きなあの人も、煙草を吸っていた。 煙草を吸うという行為だけでも、ずいぶん大人に見えたあの人。 綺麗な顔で、綺麗な指で、煙草を吸っていた。 それだけなのに、今は遠い過去の記憶に思える。 「・・・俺さ、・・・好きな人が、出来たんだ」 ためらいがちに言葉を口にすると、思わず葛篭貫が咳き込んだ。 「す、好きな人?」 「そう。それで、初めて会った時に最後までしちゃった」 次は高野がむせる。 「やっちゃったのか!」 「なのに告白したらあっさり振られて、それでラブホテルに連れ込んだのに」 もはや顔面蒼白の二人に追い撃ちをかけるがごとく、和輝は喋った。 「自分から、さよならしてきちゃった」 こうしてダイジェストに話すと、たいした事ではないように思えてくる。 「なのにさ、ぜんぜんあきらめなんかつかなくって。・・・今でも好きで、 愛してるって気持ちを止められなくて。もう、頭ん中、ぐちゃぐちゃだよ・・・」 気を抜いたら泣き出しそうな気持ちを隠そうと、和輝は両手で顔を覆った。 その様子に、二人の親友が肩を叩く。 「最近さ、いきなり授業ぶっちするし何やら叫び出すし、おかしいなとは思ってたんだけど」 「そんな事があったとはなぁ」 言葉に困る、と言わんばかりに頭をかくと、高野が立ち上がり、柵に手をかけてグランドを見下げた。 「なんか変わったよな、お前。ここ2・3日ですごい大人になったみたいだよ」 寒空の下の屋上には、冷たい風が吹きぬけてゆく。 「前は何をやってもどこかしらつまんなそうで、投げやりな感もあったのにさ、今はその好きな人の事で 真剣に悩んでるじゃん。それだけでお前がどのくらいその人を好きかって事が伝わってくるよ」 和輝が顔を覆っていた手をはずした。 おって、葛篭貫も口を開く。 「そうそう。俺らはそうでもない扱い受けてるけどさ、人間関係も手ぇ抜いてるみたいに 見えるところとかあって、だから彼女とか出来てもすぐに振られてたんだと思う」 「だけど今は違うんだろ?それだけ好きになれる対象が出来たってだけでも、お前には進歩だと思うぜ」 はげます事しか出来ないけど、とつけくわえて、二人は和輝を見た。 「あきらめちゃいけないんじゃないのか?その好きな人に、何度でもアタックしてみろよ」 「これ以上ないってくらい玉砕してるなら、もう下はないじゃないか。頑張ってみろよ。 大丈夫、俺らから見てもお前っていい男だからよ」 葛篭貫にウィンクを飛ばされ、和輝は思わず笑みをもらした。 「なんか、俺よりも俺の事分かってるみたいだな」 和輝の呟きに、高野が親指を立てて見せる。 「当たり前じゃん。俺たち、ダチだぜ?」 その言葉に三人は思わず笑みを漏らした。 学校には授業終了のチャイムが鳴り響いている。和輝は両腕をのばすと、立ち上がった。 「よっしゃ、いっちょ頑張ってみるか」 若干親友たちにも言ってない問題はあるが。 確かに始まってしまった恋に、もはや性別など関係ないのかもしれない。 憧れていた平穏な日々を捨ててもいいと思える存在を追うのなら、いっそそれくらいでなければはりあいがない。 真相を知らないとはいえ応援者もいることだし、和輝はやる気を取り戻した。 好きなんだから仕方がない。 そんなわけのわからない理由で、人生を投げてもいいのではないだろうか。 後ろ指をさすような連中がいるなら、全部殴っていってもいいのではないだろうか。 自分の全てをかけても惜しくないくらい、あやかが欲しいのだから。 「あ・・・でも、俺自分からもう会わないって言っちゃったんだけどな・・・」 今更だが、重要な事に和輝は気付いた。 「大丈夫だって!理由なんか後からついてくるんだからさ、とりあえず会ってみれば? 案外相手も会いたかったわ!なんて言ってくれるかもしれないぜ?」 葛篭貫の冗談混じりなはげましに、和輝はうなづいた。今はわらにでもすがりたい気分なのだ。 「その言葉、信じるぞ?」 にっと笑った和輝に、高野と葛篭貫はオーケーサインを出した。 その後、和輝はそのまま自宅に戻るべく学校を後にした。 本来ならばホームルームがあるのだが、一刻も早くあやかに会いたかったし、高野と葛篭貫も帰っちゃえ、と 言ったのでサボることを決意した。 しかしながら、家で着替えをすませた和輝はどこであやかと会えるのかさっぱり検討がつかずに、 以前やってしまった公園に来ていた。 「これからどうするかなぁ・・・」 困ったように頭をかく。 考えてみれば、和輝はあやかの住所や電話番号どころか、フルネームさえ知らない。 これでは連絡の取りようがなかった。頼りの貴子は家にいなかったので学校へ行ったら、今日は休みだと 言われてしまった。携帯電話に連絡しても留守番電話サービスにつながってしまう。 一体どこに行ったのだろう? とりあえずこの公園にいることを録音すると、和輝は自分の携帯電話に連絡がはいるのを待った。 もしかしたらあやかは先日のように渋谷にいるのかもしれない。 けれど、広い渋谷をやみくもに探すよりも、このまま貴子から連絡がくるのを待って、 あやかの居場所を教えてもらったほうが早いはずだ。 和輝は小さなブランコに大きな体を乗せて、何度か揺らした。 ブランコがきしむ度、いろいろな想いが頭をよぎる。 自分の人生観をここまで変える出来事があるなんて、想いもよらなかった。 あやかと出会ってから、今まで自分でも知らなかった自分が見えてきた。 激しい情熱を抱く自分、嫉妬深い自分、あきらめの悪い、自分。 どれも真実の自分で、それを引き出してくれたのは初めて好きになった人、あやかだった。 人を好きになるという事が、こんなにも大変な事だとは思っていなかった。 恋なんて、簡単にできるものだと思っていた。 けれど実際は同じ性別の人間を愛し、からまってしまった感情が胸に重くのしかかってくる。 「あやか・・・」 和輝は、腕に残る温もりを確かめるかのように呟いた。 「和輝!」 すると、呼び声に答えるかのように公園の入り口から聞きなれた声がした。 振り返ると、あやかが息をきらせてこちらを見ている。・・・夢かと思った。 「あや・・・か?」 もう一度、名を呼んだ。 せめて、この一瞬が本当であるように。 |
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