Original Boys Love Novel 07

KISS TO KISS
LEVEL 07 キスの数だけ切なくて







愛と嘘とセックス。
希望と堕落と真実。

唇の嘘が、
身体中に流れ込む。
あなたしか見えないのに。

愛と嘘とセックス。
笑顔と涙と誘惑。

そしてまた、嘘をつく。





和輝はあやかの肩をぐいぐいと引っ張って、銀行へ駆け込んだ。
そしてあやかを抱え込むようにATMからお金を引き出す。今までのバイトやお年玉で貯めた、30万。
それを全額引き出すと、和輝はまた渋谷の街へ足を戻した。
「和輝!痛いよ、手を離して・・・」
あやかの言葉を無言の圧力で押し殺しながら、和輝は道玄坂にある先程見掛けたラブホテルへ入ってゆく。
「えっ、ここって・・・?」
連れ込まれた場所がラブホテルだという事実に困惑の色を隠せないままあやかが尋ねる。
しかし我を忘れた和輝の動きは、微塵の隙をもあたえない。
ラブホテルのロビーに入ると、それぞれの部屋の写真がついた大きなパネルが並んでいる。
和輝はその中のひとつを適当に選ぶと、選択した部屋のパネルを軽くさわった。
そしてそのすぐ下にある「休憩」と書かれたボタンを押し、お金を払う。
和輝はカタン、と落ちてきたキーを拾った。
「何をするつもりなんだよ、和輝!」
彼が本気であることに気付いて、あやかの全身から血の気が引いていった。
照れた仕草とかが妙にかわいく思えた和輝の大きな身体が、今は恐いとさえ感じられる。
あやかはあがらおうと必死に手を振り回したが、もう一方の手で腰を捕まれ、
難無くエレベーターに乗せられてしまった。
そして3階につくと、奥から3つ目のドアの鍵を開ける。先程から和輝はずっと口をつむんだままだ。
「嫌だ!嫌だってば、和輝!」
部屋に入らされてもなお抵抗を続けるあやかを軽々と抱え上げた和輝は、あやかをベットへ放り投げた。
そして後ろ手に鍵を閉めると、手に握り締めていた30万をあやかに投げ付ける。
「これで、好きにしていいんだろ?」
耳に響く心地好いはずの和輝の声が、凄味を帯びて心を突き刺す。
「これは受け取らない!だから抱かせない!」
あやかも負けじときつく言い返す。しかし、逆にこの言葉が和輝をますます怒らせてしまった。
何故、自分の気持ちがわからないのだろうか、この人は。他の男に抱かせたくない、独占欲という気持ちが。
和輝はあやかの両腕を片手で押さえながら、上着のボタンをはずしていった。
その間に唇でズホンのチャックを下ろすと、あやかの顔を見ないまま舌で愛撫する。
「やだ、止めろよ・・・っ」
あまりの事に、うっすらと目尻に涙が浮かんでくる。
自分の事を好きだと言ってくれたのに。自分に優しいキスをくれたのに。
なぜ、お金で自分の事を買おうとするのだろう。
あやかの心が不安で一杯になる。
「お願い・・・、止めて」
奮える手が、和輝の頬を撫でた。
「君には、和輝にはお金なんて払ってもらいたくないよ」
好きだから。
本当の恋だから。
あやかは抵抗を止めた。
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
和輝もあやかをまさぐる手を止める。
「こんなに好きなのに・・・、こんなに、こんなにも好きでたまらないのに!」
和輝の唇があやかの唇を覆った。甘いしびれが彼らを襲う。
愛してる人のキスは、まるでついばむように切なく、胸に優しいとげを刺す。
「俺は、こんなにあやかを求めているのに・・・」
和輝の手がシーツを握り締めた。
「どうすればわかってもらえるんだよ!」
あやかの瞳を見据えて、和輝が怒鳴った。

アイシテル。
スベテヲカケテ、
アイシテイルカラ。

「何百回も好きって言えばいいのか?何千回とキスをすれば分かってくれるのか?」
シーツを握る手に爪がくい込み、うっすらと赤い血をにじみ出す。
「一番大切な想いは伝わらないのに・・・」
あやかは、つらそうに眉を寄せる和輝を黙ったまま、ただ見詰めていた。
「俺にはもう、あやかから目をそらす事なんて出来ないのに!」
どんなにごまかそうとしても無理だった。焦がれる気持ちなんてどうしようも出来ない。

スキナンダ。

それしかない。それ以外の想いなんてない。
「和輝・・・」
あやかの手が再び和輝の頬を撫でた。
そして、抱き締めたい衝動を必死に押さえながら、あやかは両手で和輝の顔を包み込む。
「だめなんだ。僕じゃ、だめなんだよ」
呟いた言葉が、あたりに響く。
「どうかお願いだから、僕の気持ちも分かって・・・」
そうして、和輝の頬に口付けようとした。
「分からないよ!」
和輝は、あやかの体を振り払うとベットから体を起す。
「俺の事が嫌いなのか?」
頬へのキスを避けられ、投げかけられた質問にあやかの声も粗ぐ。
「嫌いになんかなるはずない!」
それどころか、多分、惹かれている。
「じゃあ、なんでさよならなんかしたんだよ!」
和輝は、初めて会った公園での夜を思い出していた。

好きだと言った。
分かっていると言われた。
そして、「さよなら」と、告げられた。

さよならの理由なんて和輝に分かるはずもない。
「・・・言えないよ」
あやかは和輝の目を見ながら、はっきりとそう言い放った。
その様子に、和輝の顔は落胆の色を隠せずにいる。
強い瞳で言い切られたショックに、和輝はめまいすら覚えた。けれど、答えは出ていない。
「・・・わかった」
和輝の低い声が、あやかの首筋をなぞる。
和輝は踵をかえすと、部屋の出口まで早足で歩いていった。
強ばった表情は、どこかしら寂しげな印象を与える。
「これで終わりにする。もう二度と会わない」
そして、背をむけたまま扉を閉める。
「・・・さよなら」
小さな呟きが、ドアの閉じる音と重なった。
部屋には、呆然と成り行きを見ているしかなかった、あやかだけが残された。
ベッドの周りには和輝のお金が散乱している。
あやかはゆっくりと服を着ると、ポケットから携帯電話を取り出して短縮番号を押した。
無機質な機械音が何度か鳴ると、スピーカーから貴子の声が聞こえてくる。
『はーい、貴子ですけどぉ』
いつもと変わらない貴子の声に、あやかの身体がびくり、と反応する。
「あやかだけど・・・」
『ああ、和輝とは会えました?』
自分でけしかけたのだから、貴子も彼らの事が気になっていた様だ。
「今、二度と会わないって言って、出て行った・・・」
『えっ・・・出て行ったって・・・』
そう、振り向いてすらくれないまま、ドアを閉めた。
あやかの頬に、自然と涙がつたう。
「和輝、出て行っちゃったんだ・・・。
どうしよう、こんなに好きになるなんて、思ってもみなかった!」
『ちょ、ちょっと!あやかさん?』
電話の向こうで、貴子が困惑する。
だって、AVとか売春とかやってる僕なんか、彼につりあわないと思ったんだ!
彼を、僕のせいで汚したくなかったんだ!・・・だから、さよならって言ったのに・・・」
涙で唇が奮える。
「本気になる前に別れようと思ったのに!・・・どうして和輝にさよならって言われて、
泣いてるんだよ、僕は!自分で望んだ展開なのに、どうして・・・」
そのまま、崩れるようにしゃがみ込んでしまう。足に力が入らない。
『あやかさん、とりあえずうちに来れる?話なら、それからゆっくり聞くから!』
内心、ここまで話がこじれるとは思っていなかった貴子が、あせってそう告げた。
話の要因のひとつには、貴子も絡んでいる。
それどころか、和輝にトワレの香りをつけさせあやかと会せたりして余計に話を
こじらせてしまった気もする。
貴子の言葉に小さくうなづくと、あやかは右手の甲で涙を拭った。


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