Original Boys Love Novel 06

KISS TO KISS
LEVEL 06 理由のない恋愛







抱き締めた腕の温もり
別れ際の唇の温もり
背中越しに伝わる温もり
舌と舌が絡み合う温もり

偽りじゃないのなら
ソバニイテ
一緒に堕ちてくれるのなら
イッソコロシテ

つないだ指が、アイシテルと悲鳴をあげるまで
あなたの瞳を見つめさせて





身体中に、「好き」が浸透してゆく。そしてたまらないくらい体温が上昇する。
人の「想い」とは、これほどに制御不可能で自分勝手な考えを起させるものだったのか。
あやかが欲しい。
手に入れたいと思う。
それは身体とか心とかそういったものではなくて、ただあやかに自分を見てもらいたいだけの、気持ち。
彼の視線を自分だけに向けていたいという欲求の証し。
「あやか!」
和輝の声が渋谷の交差点を突き抜ける。
その言葉を聞いたあやかの、売春目的の男に肩を抱かれたままのあやかの体が、大きく左右に揺れた。
すぐに振り返ってくれた彼の顔には、困惑と少しの喜びが浮かんでいる。
「あやか!」
そのまま赤に変わっている交差点に和輝は突っ込んだ。
何の迷いもなかった。・・・と、言うよりも、先に体が動いていた。

そばにいて口付けて欲しい。
君のことが好きだから。たまらなく愛しいから。
想いが雪のように、せつせつと心を埋めてゆく。あやかへの想いが、身体中を全てを満たしてゆく。
もう止められなかった。愛してる、きっと自分は彼を愛してる。ただ、それだけの真実。
「あやかぁぁ!」
声とともに、あやかの視界を車がさえぎった。そしてすぐ、甲高いブレーキの音が耳をかすめる。
激しい交通量の渋谷で、信号無視など自殺行為だ。
あやかは、底知れぬ不安にめまいを感じた。それと同時に、男の腕を振り払って交差点へ駆け出す。
車に轢かれた?それともはねられた?
交通事故で命を落とす人など今はめずらしくない。あやかの心拍数が跳ね上がった。
「か、和輝!」
切羽詰まった声が、眉をよせたあやかの口からこぼれる。どうして、自分はいつもそうなのだろう。
遠ざけようとして、大事なものを失ってしまう。そして、今も。
あやかの体が歩道から離れる。
自分などどうなってもいい。ただ、彼の安否を知りたい。そう思えるほど、彼の事が好きだから。
彼に、夢中になっていたから。

視界の端に、黒い車がちらり、と見えた。その瞬間、あやかは自分の体が浮き上がるのを感じた。
腹に、力強い腕の感触がある。
「かず・・・き・・・」
現状が把握できないままでいるあやかを自分の腕から歩道に下ろすと、
和輝はなにやらヒステリックに叫んでいる運転手へ謝罪をした。お騒がせして、すみません、と。
そして再び交通が流れ始めると、和輝はあやかの頬を軽く叩いた。
「危ないじゃないか!あやか!」
自分の事は棚上げにして、あやかを叱り付ける。
「俺が助けたからいいようなものの・・・」
ぐだぐだと説教をたれはじめる和輝に、突然あやかが抱きついた。
そして深く息を吐くと、震える手で和輝の顔をなでる。
「君は、僕の心臓を止める気なのか?」
少し紅潮した肌が、いっそう艶やかに見える。
自分こそ、俺の心臓を止めるつもりじゃないのか、と和輝は心の中でつぶやいた。
そして和輝は本当にあやかのことを好きな自分に気付く。
自分のことを心配してくれるこの人さえいれば、他にはなにもいらない。
「大丈夫だよ。俺、運動神経良いから」

そんなもの、いくら良くても轢かれるときは轢かれる気もするが。
あやかは少し安心したように、和輝の胸に頬を寄せた。
「・・・?」
ふいに、あやかの鼻に香水の匂いが漂ってくる。ジル・スチュアートのNO.4。
男物だが甘い香りのするトワレで、これを愛用しているAV男優は少なくない。
そのせいか、匂いを嗅いだだけでもあやかには解った。
ジル・スチュアートの香水は同性愛好者がつけることでも有名だ。
一時にはそれをつけていることで、売春をしていることをアピールする少年たちが増えたくらいだ。
しかし、先日会った和輝はトワレなどつけていなかった。
だとすると、この香りは誰かの残り香、移り香ということになる。
香りが移るほど接近した、自分以外の同性愛好者の。
そう思うと、見えない嫉妬心があやかを覆った。
眉をひそめ、あやかは放っときっぱなしだった売春相手の腕を取る。
「おい?・・・あやか!」
いきなりの行動に和輝がすっとんきょうな声を上げるが、あやかは呼び声に振り返りもせず、細い道へと入っていく。
「ちょっと待てよ!」
どうやら話も聞いてくれなさそうな様子に、和輝は男からあやかを引き離した。
「何するんだよ!」
あやかがその行為に抵抗をみせるが、いかんせん和輝の力のほうが上なので両腕を捕まれたまま抱き締められる。
「それはこっちのセリフだろ?昼間っから何しようとしてるんだよ!そいつと!」
初めて会って、振られて、探して、やっと見つけたのに男と歩いている。しかも売春目的で。
そんな事実を再確認した和輝が声をあらげる。
「何しようと勝手だろう!自分だって男物の香水の残り香つけて、今まで誰といたんだよ!」
負けじとあやかが声をあらげた。
「男物の香水?・・・これは貴子の部屋で」
「言い訳なんか聞きたくないね!」
「だから、言い訳なんかじゃないんだって!」
・・・渋谷の街中で、どう見てもゲイのカップルが痴話喧嘩を繰り広げている。
世間一般の人たちがこの現場を見たら、十通八苦そう思うだろう。
そしてこの場にいる第三者もそう思ったらしい。それこそ貴子の思う壷なのだが。
「おい、人を無視して何言い争いしてるんだよ!」
あやかを「高い」と言った男が、なにやらわめきだした。
しかし当の本人たちがそんな男の戯言に耳を貸すほどひまではない事は一目瞭然だ。
「うるさい!」
思わず二人の声が綺麗にはもった。それに逆上したのか男が顔を赤くして和輝に掴みかかる。
「うるさいとは何だ!俺は金払ってるんだよ!」
「金だぁ?」
和輝は自分よりも15センチ程低い男の胸倉を掴むと、自分の顔にめいいっぱい近づけた。
このままではたれ目の男を殺しかねない雰囲気に、あやかは和輝のそでを掴んで抗議する。
「そうだよ、そいつは俺を買ったんだ!」
だから和輝は家に帰れ、とあやかが睨んだ。
「買えばいいんだな?」
低い声がつぶやいた。
「あやかを、俺が買えばいいんだな?」
「!・・・和輝?」
掴んでいた胸倉を突然離すと、男は荷物のように道路へ落ちた。
そして切れた和輝に一瞥されると、小さく悲鳴を上げながら自分の車へと逃げてゆく。
それを見送ると和輝はあやかの肩を抱いて渋谷のセンター街に足を向けた。
凍り付いたような和輝の表情に、あやかは視線を道に落とす。どうしてこうなってしまうのだろう、と・・・。


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