Original Boys Love Novel 02
KISS TO KISS
LEVEL 02 SEEK YOUR EYES
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瞳が捕らえる 逃れられない重力 歪む精神 万有引力の法則 止まっていた時間が動き出す 貴方へ 貴方へ向かって動き出す 和輝はビデオを見ながら、首を傾げた。それもしかたがないように思えるのは、アダルトビデオなのに 男性しか出演していないからであろうか。 「なあ、貴子。これって・・・」 言いかけた言葉は、息とともに喉へ飲み込まれた。ビデオは容赦なく回り続け、テレビからは悩ましい 嬌声が発せられている。 最初は、どこかで見たような洋画のワンシーンに似た感じに作られていて、ああ、これはB級のAVだな、と思っていた。 雨が振る土曜日に、男二人が濡れた姿でマンションに帰ってくる。一人の男がグラスにブランデーを注ぐと、もう一人の男が 煙草に火を付けてブランデーの代わりに煙草を咥えさせる。そして、軽いジョーク。 でもゲームのような会話の後、雨音がシャワーの音に変化した頃から、自分が何を見ているのか解らなくなってきた。 男同志が楽しげに二人でシャワーを浴びている。 しかも、見詰め合って、キスをした。 「た、た、貴子。おい、貴子!」 たまらず和輝が叫び出したが、貴子はそんなことお構いなしでビデオを楽しんでいる。 どうやらこういったビデオを観るのは初めてではなさそうだ。 やがてビデオの中の二人は裸のまま互いに抱き合い、激しく口付けをかわし続けた。長髪の男は しばらくして、おおよそモデルにでもいそうな程奇麗な男の体を降りるように舐め始める。 整えたように浮き出た鎖骨を男の髪がちらちらと触れ、切なげな息遣いが聞こえてくる。 たしかに、AVだ。 しかし、和輝が期待していたものとは程遠いように思える。何せ女性が出演しておらず、目の前で 繰り広げられる内容は確かにナニなのに、ふくよかな胸も悩ましい腰つきもない。 いや、ある意味では悩ましい腰ならあるのだが。 でも女性の腰には、あんなものはついていない。それをいじられて眉を寄せるのは、紛れもなく、男。 『あ、あ、・・・そうっ』 長髪の口が何かを含み、奇麗な青年の声が熱を帯び始める。そこでようやく、和輝はこのビデオが ホモビデオと称される一品であることに気が付いた。 ホモビデオ。男同志のナニをナニにナニしているところをビデオに収めてしまったどしぇーな売り物。 昨今、こういったものが一種のブームになっている、ということぐらいは知識として知っていた和輝でも、 いざ本物を見ると驚愕の色を隠せないようだ。 それは男同志の行為に対して、というよりも出演している青年に対して、なのだが。 なにせその青年の顔は直接下半身にくるくらい、好みなのだ。和輝は自分が面食いだという事を、世間に公表して はばからない性格である上、その好みのレベルが高いということも、理解しているつもりだった。 だからこそ、女の子にもてる和輝なのに、付き合った女性は一桁、という数字が出てくるのだ。 もちろん、交際期間は半年以内で終ってしまうというオプション付きではあったが。 なのに、そのレベルの高いはずの好みの顔が、ビデオに克明に映し出されている。 スレンダーな体は青年が男であることを証明しているのに。 あろうことか、感じてしまったのだ。和輝は。下半身にこう、ズズーン、と。 好みの顔だから、という理由だけではない。青年の濡れた瞳が、唇が、男の想像をかきたてるのだ。 「っつ・・・」 ふいに和輝が前屈みになり、勢いよく部屋を飛び出した。 「あ、和輝?」 貴子の声が耳の端で消えるのを感じながら、和輝の手はトイレのドアを掴んでいた。 理由はひとつ。 反応してしてしまったの自分のソレを、なだめるため。 ズボンのチャックを開けて、変わってしまったモノを目で確認すると、和輝は深く溜め息をついた。 「俺ってば、えらい恥ずかしい奴・・・」 けれど、男に中心を握られた時の、青年の顔。快楽に溺れる直前の、切ない顔。そして、濡れた唇から漏れる、高い声・・・。 あんな姿を見せられて平気な顔をしてる奴なんて、不能か過剰なマゾヒストだけだ、と思う。 いや、少なくとも、和輝はそう思ってしまったのだ。 「ちっくしょう。何で、俺の好みの顔してんだよぉ」 和輝、それは八つ当たりだ。 しかし、反応してしまったものは仕方がない。熱が冷めるのを待つか、プライドを捨てて自慰行為を行なうか。 選択はふたつにひとつしかないのである。 和輝の場合、貴子という伏兵がいるためうかつな事は出来ない。困難な選択が余計に容易ではなくなるのだ。 それなのに、中心は変わらず熱を持ったままでいる。 「っつ・・・・ごめん!」 謝るのは、自分へか。それとも頭によぎる画面の顔にか。 和輝の手が微かに震えて、結論を下した。まだ数えるのなら片手ほどしかはいた事のないジーンズを膝まで下ろして、 変化した自分に指を辿らせる。 そんな行為は初めてではない。でも、恥ずかしくなってしまう自分が妙に悔しくて、和輝は冷えた脳裏に 同じシーンを繰り返しよぎらせた。 自分は正常な男子で、女の子が好きで、平凡な人生を歩む予定の、藤臣和輝、十七才。今までは。 そうしてこれからは、ホモビデオをおかずにやっちゃう、規定から外された、変質者。 「嫌すぎる・・・」 熱のこもった声で呟いても、まぶたの裏側にはビデオの中で奇麗な肢体をさらけだす、あの人がいる。 強烈で、鮮烈で、刺激的な感覚を呼び起こしたあの表情で自分を見ている。 「あっ・・・つ」 腕の筋肉が硬直し始め、快感を求めて激しさを増していくと、和輝には理屈などいらなくなっていた。 イキたくて。 あの人と。 二人で。 「和輝!」 達した瞬間、貴子の大声がドアを叩く音とともに耳へ飛び込んで来た。 「悪いんだけど友達からベル入ったから家に帰るね。 ビデオは置いていくから巻き戻しておいてちょ。よろしくぅ」 言いたい事だけを伝えると、貴子の足音は階段を降りていき、やがて玄関を出ていった。 和輝はほっと一息つくと、トイレットペーパーを丸めて水を流した。すっきりしてしまった自分を少し諌めながら。 「貴子が悪い」 ぼそり、と。 「そうだ。貴子が悪い」 なにやら呪文のように繰り返しながら、和輝は自分の部屋へ戻った。例のビデオテープは途中で止められている。 「こんなビデオテープを持って来るなんて・・・」 リモコンが巻き戻しを発信した。 翌日、和輝は冴えない顔で授業を受けていた。まだぼんやりと、頭の中でビデオの余韻が残っている。 あの後三回もホモビデオでぬいてしまった事実が、腰のあたりで物語っている。 君は、ドロップアウトしてしまったんだよ、と。 まさか自分の人生の危機が、こんなに早く、こんなところで発生するとは考えていなかった。 窓の向こう側にみえる空はいつもと同じで、教科書を朗読している同級生は相変わらずなげやりで、そんな中。 自分だけが確実に「平常」から外れてしまったように思える。 和輝は認めたくないという意志と、なぜか惹かれてしまったと感じる心とで揺れていた。 あの人の指、舌、息遣い。消したいのに、頭から離れない。 だからといって、自分が馬鹿にしていた人生の落第者にはなりたくない。 それでも。 「初めて人の顔を、奇麗だと思ったんだ・・・」 頬杖をついていた手が、髪をかき上げる。 「わかんねぇよ・・・」 初めてぶつかった厚い壁に、和輝は眉を寄せるしかなかった。感じた事のない強い引力。あがらえない何か。 ただそれは、決して不快なだけではなくて。わからなくて。 「名前も、年も、知らない。俺は何も・・・」 悔しさが込み上げて来て、和輝は机を叩きながら急に席を立った。 「何も知らない!」 和輝の大きな声が、授業を止めた。 一瞬、教室が静かになり、級友たちはなりゆきを見守った。和輝は唇を噛み締めると、乱暴にカバンを肩に担ぐ。 そして、大股で黒板の前を通り過ぎた。 「先生、俺早退にしておいて下さい」 言うが早しか、行なうが早しか。和輝の背中が教室から消えた。 残るのは、動揺とざわめき。 午後の最後の授業中。 |
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