Original Boys Love Novel 01

KISS TO KISS
LEVEL 01 自分の知りたくない世界







絡み出す運命。
果てのない旅への出航。

すべては今のために。
今は明日のために。

ねぇだから、早く俺に気づいて。





人間、いつ何時平凡な人生を踏み外すかなんて、わからない。けれど神様にだって、
予定していた人生を自分からわざわざ狂わせる人間のことが、わからないのだ。
そうやって、人としての生をドロップアウトしてしまった奴等は、お決まりの毎日を
歩くだけのえらい人間に、「外道」やら、「変態」やらと、憎まれ口を叩かれなければならないのである。
まだ十七年間しか生きていない藤臣和輝は、己だけはそうはなるまい、と固く心に誓っていた。
規律を重んじる現代社会だからこそ、人並みに、枠からはみ出さないように生きていこうと。
だからといって、彼が地味で平凡な人間なのかというと、そうでもない。外面だけでなく、
内面だって派手なほうである。あくまで、安穏とした暮らしが憧れなだけの、安穏とは暮らせない人種だった。
まず、女の子が放ってはおかない。平均より高めの身長、男らしい顔立ちとまめな性格。
微笑みは精悍で、スタイルは誉めるに値する。アイドルよりも身近、でも妥協したくはない。
そんな彼女達の思いに、ぴったりくるのだ。この和輝と言う男は。
もちろんそれだけの男を、同性の輩だとて知らんふりする理由はない。勉強に部活動と、
ひっきりなしにお呼びがかかる。しかもそれに答えるだけの実力を有している彼は、
私立大学付属の高校において、ちょっとしたアイドルとなっていた。
本人いわく、学校という狭い空間で崇められても、所詮それは虚無でしかない、となにやら悟りを
開いているようだが。

その和輝に、一人の女の子が声をかけてきた。落ちそうなほど大きな目を持った、
可愛らしい女の子である。和輝は声の主が誰かをすばやく判断し、少し皮肉げな笑顔で振り返ると、
一本十センチはありそうな指で彼女を指した。
「遅い!」
一言めにそう言われ、女の子は目を瞬かせた。
「お前、時計を持ってないのか?約束の時間は4時。30分も過ぎてるんだぞ!」
額にはさりげなく血管が浮かんでいる。
「いつもいつも遅刻しやがって!いくら幼馴染と言えど、今日こそは勘弁ならん!」
たまりにたまった怒りに、和輝は言葉が時代劇調なっていることに気が付かなかった。
「あはは。ごめん、ごめん。和輝の前に、友達と約束があってさ。許してよ」
舌を出しながらウインクをしたが、反省した様には見えない。その姿に、和輝は鞄を肩にかけると、
大股で歩きだしてしまう。
「ごめんで済むか。だいたいそういうときは、俺と待ち合わせなんかするなよな。
予定なんていうのは、ずれ込むのが当然なんだから」
ぶつぶつと説教をたれる和輝の後を、彼の幼馴染である霧島貴子がちょろちょろと追いかける。
貴子は生まれた時から和輝とお隣同士で、年齢も近いことから今も仲良くしている可愛い女の子だ。
ただ彼女は、かなりぶっとんだ性格だったため、いつも面倒なことを彼にまで持ち込んでいた。
「和輝は先生みたいなこと言うね。そんなにお堅いと、いつまでたっても彼女出来ないよ?
なんて言って、遅れた私がいけないんだけどさぁ」
顔を覗き込むと、和輝はそっぽを向いてしまう。
「そうだ。遅れたお前が悪い」
それでも貴子は、眉毛を中央に寄せている和輝をよそに、自分のバッグをあさっている。
「でもね、今日はいいもの持ってきたんだよ。だからさ、これで機嫌治してよ」
ポン、と出されたのは黒いカバーのビデオテープだった。
「何だよ、それ」
商店街を抜けると、二人の家が見えてきた。ごく一般の一戸建で、赤色の屋根が和輝、青色の屋根が貴子の家だ。
貴子は周囲に人がいないのを確認すると小声でつぶやいた。
「無修正のアダルトビデオ」
どぎゃああん!である。
この幼馴染みは、一体何を言ったのだろうか。和輝には判断しかねる言葉だった。百歩譲って、アダルトビデオは
許すとしよう。だが、先程の言葉の中には『無修正の』という単語が入っていたように思える。
なぜ、貴子のような女子高校生がそのようなモノを所持しているのだろう。健康、かつ年頃の男子で
ある和輝でさえ、見たことがないというのに。
和輝はふらつく足取りのまま、貴子の肩を軽く叩いた。
「な、な、何でお前が、その、・・・ビデオをだな、持ってるんだ?」
正直者の和輝に動揺は隠せず、語尾があやしくなる。心なしか、顔も青い。
「知り合いの人にダビングしてもらったの。和輝も、一緒に見てくれるでしょ?」
いくら幼馴染だと言っても、女の子相手に下ネタを堂々と語れるほど和輝は大人ではない。
それどころか常識という概念にとらわれたまま、世間の反応さながらに貴子のことを非難してしまう。

もし彼女が男だったり社会人だったりしたら、また違った対応が出来たのかもしれないが、
それはあくまで仮定の話だ。
今現在、目の前にいるのは貴子であり、女の子であり、未成年の学生でもあったりする。
少し頭の古い和輝には、彼女の行動を理解することこそ無理な注文なのだ。
「知り合いって、どこのどいつだよ」
順当な質問である。
ダビングされてしまったものはもうどうしようもないが、これから先、同じような事が起こっては
困ると判断した和輝は、ダビングした相手を知ることで先手を打とうとしたのだ。
そんな和輝の企みを知ってか、知らずか。貴子はすんなり返事を返す。
「和輝の知らない人」
これでは、さすがの和輝も手の出しようがない。
すっかり疲労根狽した彼を横目で見ながら、貴子は自分の家の玄関を開け、鞄を放り込んだ。
まだ、お互いの家人は帰宅していない様子である。そのため、彼女は和輝の部屋でビデオ鑑賞会を開くことにしたらしい。
和輝がドアの鍵を開けると、貴子はちゃっかり中へもぐり込んでいた。
「おい、何してるんだよ。ビデオなら自分の家に帰って見ろ。俺は見たくない」
興味がないわけではないが、『貴子と一緒に』という事実が心底嫌そうに告げる和輝に、貴子は微笑みを返す。
「だってぇ、あたしの部屋デッキないし。和輝の部屋なら親も来なくて安心でしょ?あ、まさかとは思うけど、
うちの居間で見ろってんじゃないでしょうね、これを」
そしてもう一度、黒いカバーを見せ付ける。和輝は口で貴子に勝てる者がいないことを身を持って
知っていたし、勝てる見込みのない反抗をするほど熱血でもなかった。
ただ、無修正のアダルトビデオなんてものを見せられて、もし自分のムスコが反応してしまったら、と思うと
気が気でなかったりするのだ。貴子のことだ。面白がってもて遊んだ挙げ句、むこう三ヶ月は馬鹿にされるに違いない。
幼稚園の頃からそういう奴だった。
しかし、ここで反論して得るものなど、カケラもないということも和輝は知っていた。やるといったらやりとげる。
変に律義なところが貴子にはあるのだ。そのため、中途半端な断り方など彼女には通用しないのである。
・・・覚悟は決まった。
「わかった。見てやろうじゃないか、無修正!」
「やったー!」
貴子は手放しで喜んでいる。
「ただし、余計なことを口走ったらその場でソク!退場だからな!」

釘をさしてみたところで、無駄な処置だとは思うのだが、やらないでいるよりかは
数倍まし、と言わんばかりに和輝は付け加えた。
そして、長いプロローグは終わりをつげ、本編への布石となる一歩を踏み出すのである。
もちろん我々の期待通り、和輝が人生をドロップアウトするのも、このビデオテープが始まりになるのであった。


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