
ベッドサイドに置かれたテーブルの上のタッチランプがぼんやりと当たりを照らし出す。
部屋に入ってからすぐにセックスした恋人はベッドの中で小さく寝息を立てていた。
そんなあやかの表情を見つめながら、和輝は口元をほころばせる。
大好きで、大好きで、自慢な恋人だ。
タッチランプのオレンジ色の光があやかの頬に色を差し、長い睫に濃い影を落としている。
こうして顔を見ているだけでも鼓動が早くなってしまうほど和輝はあやかのことが好きだった。
何故こんなにも惚れてしまったのかはわからない。
けれど心も身体も正直で、すべてが彼のために動いていることを和輝に教えてくれる。
「・・・・・」
あやかの頬にキスをしようと身を乗り出した和輝だが、ぎし、とベッドが軋んで動きを
止めてしまった。
もう起こしてもいい時間だろうかと時計を見やると、針は12時を指している。
夕方に遊びに来て、エッチをして、そのまま寝て。
夕食を抜いているものだからさすがに小腹もすいてきた。
あやかも起こしたからといって怒り出すようなことはないし、たぶんお腹もすいているだろう。
そう考えた和輝はあやかを起こそうと顔を近づけた。
「・・・・んぅ・・・・」
するとあやかは毛布をひっぱりながらころりと和輝のほうへ寝返りを打ってきた。
あやかの頭の横に置いていた手に彼の寝息がすう、と触れる。
瞬間的に和輝は身体と手を引いてしまった。
無防備なその表情に欲情しかけて、必死に止めたのだ。
若いままに何度も求めるのは簡単だ。
けれども和輝はそれだけが必要ではないことを知っている。
大切な人だから寝顔も見ていたし、いろいろな会話もしたい。
「・・・・・・・」
再び和輝はあやかの顔へと自分の顔を近づけた。
そして滑らかなその肌に触れるキスを落とす。
ずっと抱きしめていたいけれど。
それはまた後でのお楽しみにとっておくことにして。
和輝はゆっくりとベッドから抜け出した。
そして思い出したように玄関へ向かうと学生かばんの中からマシュマロを取り出す。
日付が変わった今日、ホワイトデーという恋人たちの幸せな時間がやってきた。
だから和輝はわざわざマシュマロを取り出したのだ。
あやかの驚く顔と、喜ぶ顔が見たいから。
和輝はさすがに裸のままは気が引けたので、そこに脱ぎ散らかしてあったパンツと、
置きっぱなしにしているジーンズを拾って着だした。
暖房がいつもついているため、肌寒いと感じることはない。
上半身裸のまま足先をキッチンへと向ける。
この間、親友の高野に教わったホワイトデーのスペシャルドリンク。
あやかのために作って一緒に飲みたい。
そう思って和輝はまだあやかを寝かせたままマシュマロを手に取ったのだ。
コーヒーメーカーにはあやかが和輝を迎えるために作っておいたカフェが入っている。
勝手知ったるでカップを二つ取り出すと、そこへカフェを注ぎ込んだ。
とぷっと静かなキッチンに液体が揺れる音が響く。
いつもはあやかが入れてくれるこの音に、和輝は少なからず愛情を感じた。
「・・・・・喜んでくれるかな」
そしてソーサーにカップを置いてスプーンを添えると、カフェの中へマシュマロを
三つ、落とした。
甘い香りがふわりと漂ってくる。
好きという柔らかな気持ちを含んだマシュマロは、熱いコーヒーにじんわりと溶け出した。
同じものをもうひとつ作った和輝はふたつのカップをソーサーごと持って
ベッドルームへ引き返す。
あやかは抜け出した和輝の場所に手を添えて寝ていた。
またこんな些細な情景だけでどうしようもなく幸せになってしまう。
和輝はカップをベッド脇のサイドテーブルにおくとベッドサイドに腰を下ろした。
ぎし、と音がしてスプリングのきいたそれが沈み込む。
「・・・・・あやか、おはよう。コーヒー入れたから、夕飯にしよう」
和輝の少し低い声があやかの耳へと滑り込んだ。
ぅん、と小さく唸ってから瞼を眠そうに押し上げるあやかの視界に和輝が入ってくる。
「・・・おはよう、和輝」
ぼんやりとした思考のまま時計を見ると、時間は12時過ぎを指していた。
「あれ?・・・ああ。そうか。あのまま寝ちゃったんだ・・・」
あやかは上半身を起こすと事を思い出すようにそう呟く。
そして隣に座る恋人の首に腕を回してちゅっとキスをした。
和輝もそれに答えるように触れるだけのキスを返すと、おはようの挨拶が終わることになる。
「・・・・?甘い」
ふと、あやかは鼻先をくん、と鳴らして香りの主を探した。
サイドテーブルに置かれたカップから甘いマシュマロの溶ける匂いが漂ってくるのだ。
和輝はそんなあやかの様子にカップをつい、と指差して見せる。
「コレだよ。ホワイトデーだから、マシュマロコーヒー」
その言葉を聴いて今までぼんやりしていたあやかの顔がぱちりと目覚めた表情になる。
「・・・あ!今日、ホワイトデーなんだ。・・・早く言ってくれればいいのに」
語尾は自分に呟くように消えてゆく。
「早く・・・?なんで?」
首をかしげて和輝が尋ねたが、あやかは和輝の首から腕を解いて視線を逸らしてしまう。
そのせいでさらに気になってしまった和輝の腕が、今度はあやかの首を
捕まえて抱き寄せた。
「なんで早く、なんだ?」
ずり、と引き寄せられて足が和輝とは反対方向に投げ出される格好になったあやかが
思わず視線を落とす。
コンドームのおかげで内部から精液が零れてくることはなかったが、先ほどまで自分の
中にいた熱量を思い出してあやかの太股がもじ、と揺らされた。
「・・・・・サービス、したのにって」
ぽつりと呟いたあやかの代わりに、和輝の頬がかぁ、と赤くなった。
さきほどのセックスのことだと直感的にわかってしまったからだ。
和輝は後から抱きしめる形になったあやかの項に唇を寄せた。
「・・・・いい、飯食べたらサービスしてもらうから」
「ご飯が先?」
あやかの口端が思わず笑ってしまう。
「そう。だって、腹が減ってたら俺があやかにサービスできなくなる」
和輝もまた目を細めて笑いかけた。
甘いマシュマロがカフェの中にとぷん、と沈む。
二人は微笑んだまま、再び唇を重ねた。
カフェに溶けるマシュマロのように。
君に夢中でメロメロな僕。
甘い香りに誘惑されて、また幸せな一日が始まる。
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