
蜷川と竜哉は二人で鍋を囲んでバレンタインデーを迎えていた。
まぁ、鍋とはいえ普通の味噌味、などではないのだが。
よくある、果物にチョコレートをつけるチョコレートフォンデュを二人でつついていたのだ。
最近はコンビニで鍋ごと売っているらしく、竜哉が購入してきた。
「バナナはやっぱ普通にうまくねぇ?」
竜哉が嬉しそうにバナナにチョコをつけてほおばっている。
それが視覚的にぞくりときて蜷川は苦笑を漏らした。
「いちごもイケてるぞ。・・・ももは、微妙だな。マンゴーも」
「そうかー?俺はけっこう好きな味だけどなぁ」
ちょうどバレンタインが土曜ということもあって、竜哉は蜷川の家に泊まりに来ていた。
泊まりといえばやることはひとつである。
せっかくの恋人同士、枕を並べてただおやすみなさいではムスコさんが黙っていない。
蜷川はどう誘おうかと必死に考えていた。
そのせいで竜哉との会話もそぞろなのだ。
「じゃあさ、じゃあさ、これは?パイナップル!酸味がけっこううまくてさ・・・」
そういいながら、竜哉はチョコパイナップルがついた自分の串を差し出してきた。
蜷川はそれにぱくつきながらさらに考える。
いつもムードがない、とか、もっと気の利いた言葉はいえないのか、と怒られてしまうのだから、
こんな日くらいは竜哉を喜ばせて・・・もとい、メロメロにさせてあげたい。
それくらいの甲斐性は持ちたいのだ。
まぁ、そういう竜哉もムードもへったくれもない奴なのだが。
「あー、パイナップルはうまいな」
ごちそうさん、と返すと竜哉は串を引っ込めた。
しかしその手にはチョコレートが落ちてしまっている。
「・・・っと、悪い。手ぇ、汚させたな」
自然と蜷川は竜哉の手を取り、そのチョコレートをぺろりと舌で舐め取った。
瞬間、竜哉の顔がかぁ、と紅くなる。
蜷川はその表情を見てはっとした。
今が。
今こそがチャンスじゃないかと。
ここでコケたら二度とうまいセリフを言う機会はないのではないだろうか。
今はいくべきだろう。
蜷川はさらにぺろりと竜哉の指先を舐めながら口端を上げた。
「甘い、刺激的な媚薬みたいだ・・・・今夜の俺はお前のすべてに酔ってしまうだろう・・・」
なんとか噛まずに言えた。
竜哉はきっとうっとりしているはずだ。
今まで一度だってこんなキザなセリフ言ったことはない。
「・・・・・あ、あのさ・・・」
竜哉の声が聞こえた。
誘うような視線で蜷川は竜哉の顔を見やる。
しかし、そこには期待していたような甘い笑みはなかった。
「・・・お前、ソレ、この間見たアダルトビデオのセリフのパクリだろ」
じっとりと、軽蔑したような視線が蜷川に突きつけられる。
「えっ!?な、なんでわかったんだ!?」
あまりのことに動揺して蜷川はぺろりと自供した。
いや、これは蜷川のいいところなのだろう。
無骨ながらに正直で、嘘はつかないところが竜哉のホレた部分だ。
「お前が見てるビデオは、全部俺が出てるんだよ!アホか!」
「うう・・・ごめん」
竜哉はバイトでホモのアダルトビデオに出演していた。
そのときのファンが蜷川なのだ。
どうやら蜷川は本当に竜哉のファンらしく、ホモAVは竜哉が出ているものしかもっていなかった。
他のものは買っても廃棄してしまったらしい。
しゅん、としている蜷川に竜哉はそっと指を伸ばした。
男らしい骨ばった顎先に指の腹をすべらせ、自分のほうへと再び彼の視線を上げさせる。
「・・・・・ちゃんとお前の言葉で誘えよ。そしたら、許してやるからさ」
竜哉の言葉に、蜷川は再び必死に考えた。
しかしどうしてもうまい言葉は見つからない。
仕方がない、それが蜷川なのだから。
「・・・・じゃあ、竜哉・・・まるごと、食べてもいいか?」
蜷川が竜哉の身体を引っ張るように自分の膝の元へ抱いた。
その力強い腕に竜哉は思わず微笑みながら頷きをひとつ返す。
「どーぞ。まるごとがぶりといっちゃってくれ」
その言葉を機に蜷川は美味しく全てをいただいた。
チョコレート味の、かわいい恋人を。
聖なる恋人たちに、バレンタインから祝福を。
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