まるで春風のように軽やかな動きで万見仙千代は自室へと足を進めていた。
芯の強そうな凛とした双眸は窓から見える青空を映し、煌きを揺らしながらも
真っ直ぐに前を向いている。
万見仙千代にとって初めての戦、初陣の決まった晴れの日である。
少なからずも誇らしい気持ちで一杯になりながら仙千代は自分の部屋の襖へと手をかけた。
「八重桜よ君が傍に」
「仙千代!」
仙千代が甲冑の用意をしていると、菊千代が小姓控えの間へと飛び込んできた。
いくらここには仙千代しかいないとはいえ菊千代と仙千代の身分の差を考えると無礼なことだ。
けれど菊千代には礼儀など考えいている余裕はなかった。
そんな様子の彼に仙千代は鋭い眼光を向けぴしゃりと言い放つ。
「・・・菊千代、止めても無駄だぞ。私は一度決めたことを覆すような男ではない」
その表情は今まで見た中でも特に意思の固いものだった。
菊千代はぐっと眉根を寄せながらも仙千代の顔から視線を外そうとはしない。
そして一言、苦しげに呟いた。
「・・・・・・・知っている」
その言葉に仙千代は思わず目尻が下がる思いを感じる。
菊千代は誰よりも自分をわかってくれている。
それをわかっているからこそ仙千代はきつい言葉で彼に対応することができるのだ。
「止めに来たわけではない・・・・・ただ・・・、いや・・・何をしたいんだ、私は・・・・」
菊千代は混乱している様子で自分のこめかみを左手で押さえつけた。
「・・・・・菊千代。心配してくれたのだな。・・・・・ありがとう」
そんな菊千代に、仙千代はこれ以上ないほどの愛情を感じている。
生涯、上様にだけ捧げると思っていたその身を抱かせるほどの愛情を。
「私は大丈夫だ。心配しすぎなのだ、周りは。皆が一度は通る道だと言うのに・・・・・」
仙千代は廊下を通る人影が少しの間切れた隙に菊千代の首へと両腕を回して、
優しく包み込むように抱いた。
そして囁きながら仙千代は菊千代の首から肩、鎖骨、胸元へと指を滑らせてゆく。
「私やそなた・・・蘭丸殿も、ここで繋ごうておる。それが私の力になる・・・そうだろう?菊千代」
仙千代の指先が、胸元をそっと覆った。
菊千代の心臓の音が仙千代の掌へと伝わってゆく。
それは確かに仙千代の力となり、そして必ずここへ帰ってこようと誓いを立てるに
相応しい温かさだった。
「・・・・・・ッ!」
菊千代は弾かれたように仙千代の身体を力いっぱい抱き寄せた。
その腕の強さに仙千代は自分を思ってくれる菊千代の気持ちを感じて頬を赤らめてしまう。
「私が・・・傍にいる。片時も離れずともに戦う。約束だ」
「・・・・ああ」
仙千代はそっと菊千代の背に指を這わせた。
年を重ねるごとに大事なものが増えていった。
今年に限ってはいつもより増える速度が速かった気もする。
仙千代はそんな宝物をくれた神に感謝の気持ちを忘れなかった。
「・・・・・」
静かな呼吸の合間、まるで掠め取るように仙千代は顔を上げ菊千代の唇に接吻した。
自分から口付けるのは初めての行為だ。
それだけ、菊千代が大事なのだと。
言葉にすることは出来ないがその唇の感触は確かな思いを彼へと伝えた。
「・・・・・・仙千代」
再び菊千代の両腕が強く、強く仙千代を抱きしめる。
耳には合戦の合図の音が響き渡ってきた。
夜が明けてしまえば二人は合戦の場へと出る。
菊千代は堪えても堪えても込上げて来る不安から逃れようと仙千代をそっと畳へ押し倒した。
仙千代との絆をしっかりと確かめておきたいのだ。
「・・・・菊千代、支度をせねば」
菊千代がしようとすることを悟った仙千代の頬が紅を引いたように赤くなる。
そんな彼の頬を片手の掌でそっと包み込んで菊千代は上から仙千代の顔を覗き込んだ。
「知っている。後で私も手伝おう・・・・・だから」
菊千代の雄雄しい瞳に仙千代の姿が映り込む。
飴細工で出来ているかのような、美しくも気高い仙千代の姿。
菊千代は僅かに頭を下げると仙千代の耳下へ唇を寄せちゅうと強く吸いたてた。
「この身体に・・・・・八重桜を散らせる許しを、くれぬか?」
その瞳は真剣だった。
上様、つまりは二人の主君である織田信長のものだとわかっていても手折らずにはいられぬ花。
菊千代にとって一生秘密にしておこうと思っていた恋心は、蘭丸の後押しによって
仙千代に告げることとなった。
一度手にいれた美しい花は何度も愛でては自分の腕(かいな)に収めてしまいたい欲を出させる。
「・・・・・挿れないのであれば、許して・・・やろう」
視線を菊千代から外しながら仙千代がぽつりと呟いた。
考えてみればこれから合戦に行くのだから仙千代の身体に傷をつけて
動きを鈍くすることは言語道断だ。
押し倒されてなお主君のために冷静に事を考えることのできる仙千代に、
菊千代は小さく笑みを漏らしてしまう。
「・・・・・ああ、わかった。お前の負担になることはしないと誓う」
菊千代は二人の大事な主君のために自分の欲望を押し込めることを胸に決めた。
その言葉を受け、仙千代は誘うように片手を菊千代の首筋に当てて
そっと指先を着物の中へと滑らせる。
菊千代もまた同じように仙千代を彩る美しい青色の袴へと手をかけた。
「・・・・菊千代・・・・っ」
袴を脱がされ、内衣でさえかろうじて肩にひっかかっただけの格好で仙千代は
菊千代の背にしがみついた。
先ほどから何度も何度も執拗に体中へ接吻を受けている。
そのたびに赤い充血が体中に散らされ仙千代はそのはしたない己の身体に羞恥を覚えた。
「そのように・・・・・跡ばかり、つけるでないっ・・・・」
戦となれば数日間信長からの召し上がりはないにしろ、初めての合戦に
情事の跡ばかりをつけて行くのではなにやら気分がすっきりとしない。
仙千代は諌めるように菊千代の顔をぐい、と自分の顔のほうへと向けた。
「・・・・・・だめか?仙千代」
菊千代は口付けを突然離され、唾液の伝う半開きの唇のまま仙千代を見つめる。
欲望に満ちたその瞳は胸の奥の火照りを揺さぶり、少し汗ばんだ肌が少年から青年へと
変わった菊千代の男の色香を放っていて仙千代ははあ、と大きく胸を躍らせながら息を吐いた。
怒ろうと思っていたのに、こんな菊千代の顔を見てしまっては咎めることなどできない。
それどころか自らの誓いを破ってまで、菊千代を身の内に感じたいと思ってしまう。
「そ、のように・・・・・強く吸われたら・・・・痛い、であろう」
苦し紛れに言い訳する。
本当は挿入のない交わりにしたのは菊千代を想ってのことだった。
共に戦ってくれるという菊千代の足を引っ張りたくはないのだ。
だからこそ、今は自制心で己の欲を隠さねばならないのに。
仙千代はいつの間にか信長よりも菊千代のことを何よりも大事に、愛してしまっていた。
けれどそれを口にすれば殿大事の菊千代に軽蔑されてしまうかもしれない。
だからこそ、仙千代は菊千代が描く理想の自分であろうと唇を強く結んだ。
「痛かったか・・・・悪い。だがもう少し、もう少しだけ許してくれ」
そう囁きながら菊千代は再び仙千代に口付けの跡を残し始める。
内股も爪先もへその横も、きっと仙千代には見えない背にも腰にもついているだろう、赤い印。
「・・・・・仙千代・・・・」
”愛している”
その言葉を呑み込んで。
菊千代は仙千代の身体を抱き起こして自分の膝へと据わらせた。
「白い肌に桜が映える・・・・・この花弁を散らせたのは、私だ。菊千代だ」
自分に告げるように苦しげに語る菊千代を仙千代は不思議そうに見つめた。
「・・・・・なれど、この胸の不安はなんだというのだ。仙千代、お前がどこか遠くへ
行ってしまいそうで・・・・」
「菊千代・・・・・私はここにいる。万見仙千代は散りはしない。いつまでも八重の花を
そなたに見せ続ける」
やわらかな白い両手が自分よりも大きな背を抱きしめた。
何度も戦に出て、傷も絶えない菊千代の身体。
自分にはないそれを何度憧れて欲しいと想ったことだろうか。
けれど手に入らないからこそ、仙千代にとって菊千代の存在は大きくなっていったのだ。
愛しているからこそ、彼の不安を取り除いてあげたかった。
「・・・・・・今宵、限りだぞ・・・・」
なにやら決心したように赤い頬で告げて、仙千代は菊千代の頬に口付ける。
そしてしなやかに伸びる脚を曲げると膝を畳について顔を伏せてゆく。
「・・・・・・・!!せ、仙千代!」
仙千代が何を言っているのかわからずにいた菊千代が、焦ったように声を荒立てる。
「しっ!・・・・・戦準備の小姓に声を聞かれまする」
菊千代の動揺を抑えるように叱咤すると仙千代は恥ずかしさを堪えて
菊千代の摩羅へ舌を伸ばした。
信長以外で口で慰めるなど、生涯ないと思っていた。
けれど菊千代を喜ばせたいと今は進んでやりたいと願っている。
仙千代は同じ年代の男根とは思えない菊千代の分身をゆっくりと口へ含んだ。
しっとりとした湿気が菊千代の皮膚をなぞり、やにわに先端へ熱い舌が触れると
菊千代の肩がびくりと揺れる。
「・・・・・・・・このようなこと、殿と菊千代にしか・・・・せぬ」
舌技の合間にそっと仙千代が囁いた。
その言葉だけで菊千代は目の前の霧が晴れたように思える。
信長と自分にしかしないということは、信長と同列に扱ってくれているということだ。
遠くから見ているだけしかできなかった昔の自分から見れば、夢のような言葉だった。
「・・・・仙千代・・・・ッ、ありがとう・・・・」
菊千代は己の摩羅に手を添えて口全体で愛撫してくれる仙千代を愛しそうに見つめる。
まだ菊千代は気づいていない胸の内。
自分の中の一番が変わってしまったという事実。
先にそれに気付いたのは仙千代で、けれどそれは小姓でいる間、
けっして口には出せない想いだった。
「んっ・・・・・き、く・・・ちよ・・・・はぁ」
先端のくびれをぬらぬらと唾液で湿らせ、そのまま顔を横へ倒して肉棒を唇で挟み込む。
唇の摩擦は先端から根本までいっきに滑り落ちていった。
「くっ・・・!」
菊千代の摩羅がびくびくっと大きく脈打つ。
先端からはちゅくっと先走りの精液が滲み出てきていた。
若さゆえか信長の性器よりも鋭角な角度で撓る男根を仙千代は舌で、唇で愛した。
丹念に裏筋も玉袋もしゃぶってやると菊千代はぶるりと身震いして射精を堪える。
「・・・・せん、ちよ・・・・だめだ、出るッ・・・・」
「出してもいい。受け止める・・・・菊千代の全てを、ハァ・・・・受け止める」
愛しい相手の摩羅が自分の愛撫で大きくなっていると思うだけで仙千代も
達してしまいそうだった。
「嫌だ・・・・仙千代、共に出したい・・・私の種と、お前の種を交じらわせたいのだっ」
そして恍惚とした表情で自分の屹立を舐める仙千代の頭を抱き寄せる。
「き、菊千代・・・・」
抱きしめられてしまい、何も出来なくなってしまった仙千代は小さく唸るような声を上げた。
「そなたは・・・・いつも恥ずかしいことばかり言う」
かぁ、と耳まで赤くなってしまった顔を菊千代が覗き込むと、荒い吐息のままくすりと笑いかける。
いつまでもこの腕にとどまっていたいと願ってしまいそうな優しい笑顔。
「お前が言わせるんだ、仙千代。・・・・・・・・好きだ。これからもずっとお前を見ていたい」
「菊千代・・・・・」
仙千代は伏せていた背をゆるりと起こしながら菊千代の肩口へ顔を寄せた。
戸惑いが爪先から指先まで走り抜けてゆく。
それでもこの時ばかりは口が滑ってしまった。
愛しいものの腕の中という類似なき安堵感。
仙千代は火照った菊千代の肌の熱さを忘れぬよう頬に感じていた。
「ならば、私はそなたが目を離せぬほどの武将となろう。だから・・・・・」
言いかけては、再び口を閉ざす。
それに焦れて菊千代が仙千代の顔を見下ろした。
「だから・・・?」
視線が交わった。
一瞬たりとて菊千代のすべてが自分のものになったように思えて、仙千代はうっとりと目を細めた。
「・・・・・・・いつでも、追いかけてきていてくれ」
精一杯の、仙千代の告白だった。
振り返ればいつも菊千代がいてくれれば、自分は今よりもっと強くなることができる。
菊千代もそうであってくれれば、仙千代にとってこれ以上嬉しいことはない。
「そんなことなら簡単だ。誓うまでもなく、私はお前の後ばかりをついているよ」
見詰め合った視線の先、自然と二人の唇が近づき、そして重なった。
今この時で時間が止まってしまえばいいのに。
そう、思ったのはどちらであったのだろう。
仙千代が菊千代の首筋へ赤い跡をつけると同時に菊千代の手が仙千代の
股間へと伸びて中心に触れた。
「っ・・・・・あ、ん!・・・・・きくち、よ・・・・」
どうしてこんなにも感じてしまうのだろうと思えるほどに、仙千代は菊千代の手に反応を見せる。
もう、お互いそんなに持たないことはわかっていた。
大きくなっていた屹立は先端からの滲みを交えぐちゅぐちゅと音を立てて擦られている。
「・・・・・仙千代、もっと、近くに・・・・」
そう促されて仙千代は菊千代の胸へ自分の胸を摺り寄せた。
その動作で二人の摩羅が触れ合い互いを擦りあう形へ変わってゆく。
「ッ、ん・・・・・あっ、あぁ・・・・」
仙千代は尻穴が疼くのを感じた。
本当はこの大きく怒張した菊千代の摩羅で奥を激しく擦って欲しい。
そう思うとたまらないじれったさに仙千代の腰が揺れ欲望に睫が濡れた。
「仙千代・・・・仙千代・・・・っ、く・・・・・」
菊千代の大きな掌が二人の性器を包み込む。
もう一方の手は仙千代を支えるように尻肉を掴み自分のもとへと引き寄せている。
「あっ、あ・・・・・・か、感じるっ・・・・・すごく、気持ち、いいっ・・・・あっ、あっ」
仙千代は思わず我を忘れて喘いでしまった。
どちらのものでもある先走りが摩羅にねっとりと絡み付いて掌の動きを激しくさせている。
ひと擦りされるたびに精神が肉体から離れていってしまいそうだった。
「ああっ、あんっ・・・・あんっ、ふ、・・・・ぅあっ、あっ」
青臭い匂いが鼻につくことすら快感へ変わってしまうほど、二人の肉体は獣へと変わっていた。
意識が下股へ集中する。
射精感がいっきにこみ上げてくると仙千代は菊千代の肩をぐっと爪をたてて握り締めた。
「あぁんっ!・・・・出る、で・・・るっ・・・・あああ!はぁ、あああっ、ああっ・・・・・」
ぶるぶると、断続的に仙千代が激しい身震いを起こす。
それと同時に亀頭の割れ目から白濁の精液が噴出してきた。
「くっ・・・・ぅ、仙千代・・・・・・・っ」
ほぼ同時に菊千代もまた絶頂を極めていた。
二人の吐き出した種液が互いの腹を濡らし、交じわう。
体中からどっと汗が噴出してきて、二人は各々に寄りかかるように身を重ねた。
「はぁ・・・・はぁ・・・・・ん」
恍惚とした表情で仙千代が余韻に浸っていると菊千代がその唇に接吻してくる。
一度目は柔らかく触れ、二度目は激しく唇を吸い、三度目で再び優しく重ねられた。
そして波が引いていくまでただ抱きしめる。
ただ抱きしめるだけで、二人の気持ちは満たされたものへと変わってゆく。
「・・・・・・・・・・・・・」
双方共についには言えぬ言葉となった、最愛の契り。
上様よりも何よりも、貴方が一番好きなのだよ、と。
けれど言葉よりもこの指先の熱がもたらす何かがあれば。
今は満ち足りた気分になれる。
行く末の水が零れようとも、ただ今一瞬の幸せを噛み締めて。
「・・・・・・・・少し、花を散らせすぎたか」
ふいに菊千代が口を開いた。
そう言われて仙千代が己の身体を見下ろしてみると、ところどころ精液で隠れているものの
激しい接吻の跡はかなりの広範囲に広がって無数の赤を象っている。
「・・・・・馬鹿者。調子に乗るからだ」
仙千代の小言に菊千代が小さく笑みを浮かべた。
白き肌に降り注ぐ八重の花弁よ。
ただ散り急ぐ桜の運命ならば、君が傍で咲き誇らん。
儚き想いを露にのせて、最後の刻も君が傍に。
君が傍で咲き誇り、君が傍で散りゆかん。
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